今回紹介するシゴトは国立国会図書館司書です。国立国会図書館は名前を聞いたことがある方は多いかと思いますが、実際に行ったことがある方は少ないかと思います。私も実際に行ったことはなく、どのような業務が行われているのかイメージが湧かないというのが本音です。
国立国会図書館とはそもそもどのような組織なのでしょうか。
まず国立国会図書館の理念は、「真理がわれらを自由にする」です。この理念のもとに知識のもととなる本がここに集結し、そして集めた情報を立法、政治に活かすこと、何よりも国民に広く情報を提供することを目的としています。戦前の情報操作や知識・知恵の無視、弾圧への反省から、人が知識を広く享受し自身の頭で考えることを大切にしている組織です。
限られた専門分野の中ではありますが「真理」を追い求める学問の礎(いしずえ)とも言える場所が国会図書館であり、様々な方法で知識を守ることが国立国会図書館司書のシゴトになります。
仕事内容
国立国会図書館の司書は、以下の4つの役割を果たすために働くことになります。
・国会の活動補佐
・資料・情報の収集
・資料・情報の保存
・情報資源の利用提供
そして職員はこれらの役割を果たすために、主に3つの業務を行っています。
調査業務
国会議員から依頼された質問について調査し、回答する業務です。国会での議題で必要になることを予想して調べ、レポートや雑誌にまとめます。
まず調査員はインターネットで質問内容について簡単に調べます。その後、質問内容に合う本や雑誌を探し、国会図書館の書庫から見つけ出します。最後に適合する資料を使って調べたことをレポートにまとめ、国会議員へ報告・説明をします。
司書業務
国内外の資料を整理して、インターネットで公開したり、蔵書検索システムで公開したり、図書館利用者の質問に答え、資料探しの手伝いをします。他の図書館から国会図書館に依頼があった本を貸し出し、郵送する業務も行います。
その他にも本・資料の管理、修繕、本のオンライン化、開館・閉館業務を行い、国会図書館の運営を支えています。
一般事務
国会図書館の建物の管理、情報の管理・改善、総務、関係機関や他図書館との連携といった様々な事務業務に従事します。
以上の業務を中心に行っています。つづいては国会国立図書館司書のなり方についてまとめていきます。
なり方
国立国会図書館の職員になるには、「国立国会図書館採用試験」に合格する必要があります。表現を変えると、この試験に合格すれば国会国立図書館の司書として採用されます。
試験は「総合職試験」と「一般職試験」の二種類があり、どちらかを選ぶ必要があります。どちらの試験も筆記試験と面接試験があります。総合職試験は企画立案力が、一般職試験は事務処理能力がより問われます。前者の方が合格基準は高く、受験科目は多いです。また総合職試験には「特例制度」[efn_note]特例を希望した総合職試験受験者が総合職試験を不合格となった場合、一般職試験受験者として取扱いを受けることができる制度[/efn_note]という制度があり、この制度を利用する受験者が多いです。
二種類の試験がありますが、採用後の業務内容と配属先にそれほど差はありません。ただ総合職のほうが上位の職務の級で採用されるため、出世や年収といったキャリアに差が出ます。
また他の多くの司書採用試験と異なり、司書資格は必要とされません。受験資格は年によって変更されていますが、令和3年度の試験では「昭和62年4月2日から平成13年4月1日までに生まれた者」を要件としています。これは国家公務員の中でも年齢制限が緩く、令和3年に満35歳未満の方は誰でも試験を受けることができました。令和4年度の試験では年齢制限に加えて「大学卒業または卒業見込み者」という条件が追加されています。
例年3月頃から受験申込が始まり、一次の筆記試験が5月に行われます。筆記試験合格者は面接試験へと進みます。その後最終合格者の発表は8月中旬以降になります。試験の最終合格者は必ず採用されます。詳しい試験日程や試験内容はこちらをご覧ください。
『国立国会図書館 採用試験について』(https://www.ndl.go.jp/jp/employ/employ_exam.html)
総合職一般職問わず、倍率は低い時でも50倍、高い時では100倍以上と非常に人気のあるシゴトです。近年の採用人数は総合職が3人程度、一般職が15人程度です。毎年国立国会図書館で発表されている合格体験記を読むと、合格者は本や読書が好きというだけではなく、学生時代に学問的な調査研究に熱中していたという方が多くを占めていました。それに加えIT・英語・音楽・文芸などに力を入れていた方も見受けられました。
年収
国立国会図書館職員は国会の中の立法府に属しているため、給与は国会職員の給与規定に基づいて支払われます。
平均年収は他の国家公務員と同等で、600~650万円程度です。日本の給与所得者の平均年収が436万円1であることを考えるとかなり高い水準だと言えます。
また国立国会図書館司書は公務員であり給与の他に様々な手当も付くため、収入が安定した働きやすい環境にあるといえます。
男女比
『国立国会図書館 採用案内』(国立国会図書館職員の概要 職員統計 キャリアパス 組織図)によると、職員の男女比は男性50.1%、女性49.9%です。
管理職の割合は男性68.2%、女性31.8%です。他の企業や公的機関の女性管理職の割合と比べると高い比率になっています。
それに加えて国立国会図書館は五年ごとに女性活躍推進のための行動計画も策定しており、数字上ではありますが女性も働きやすい職場であると考えられます。
学歴
『国立国会図書館 採用案内』(国立国会図書館職員の概要 職員統計 キャリアパス 組織図)によると、職員の61.4%が大卒者、38.6%が院卒者になります。学問や知識に深く関わるため、院卒者が比較的多くなっています。高卒者の採用はありません。
大学時代の専攻は社会科学が37.6%、人文科学が51.5%、自然科学が10.9%になっています。
学部が理系文系を横断して学ぶものも多いため一概には言えませんが、一般的に社会科学・人文科学は「文系」と呼ばれる学問が多く、自然科学は「理系」と呼ばれる学問が多いです。
国立国会図書館は社会科学と人文科学、つまり文系出身者が多数を占める職場です。
勤務地
国立国会図書館の勤務地は以下の3つになります。
・国立国会図書館 東京本館
東京都・永田町
・国立国会図書館 関西館
京都・精華町
・国際子ども図書館
東京・上野恩賜公園
また、図書館での基本的な業務を学ぶために国立大学の図書館に2~3年出向することもあります。国会図書館は関東と関西にあり、転勤することもあるシゴトです。
スケジュール例
国立国会図書館の業務は多岐にわたり、一人ひとりが様々な経験をします。
ここでは代表的な司書業務に関わる図書館資料整備課の職員のスケジュールを紹介します。
9:00 開館準備
9:30 他図書館への本の郵送
11:00 総合案内での来館者対応
13:00 本の管理業務
16:00 本の修繕業務
17:00 本の管理業務
19:00 閉館業務
やりがい・魅力
国立国会図書館司書は日本の知識を支える仕事であり、知識を通して人に貢献するシゴトです。
そのため、新しいことを知ることが好きな人、学問が好きな人、本が好きな人には、それらを支える仕事はやりがいを感じられると思います。
また、調査業務では立法や政治に間接的にかかわることもできるため、専門的な知識を形にしたいと考えている人はやりがいを感じられるのではないかと思います。
つらいこと・大変なこと
まず、倍率50~100倍の試験を突破することが大変だといえます。
また、国立国会図書館はIT化に力を入れているため、配属によってはIT技術を学ぶことも求められます。本を実際に扱う業務に就きたい人にはギャップに感じることがあるため、入職前に認識はしておいたほうがよいでしょう。
国立国会図書館は他図書館の司書と比べて様々な業務に従事します。司書業務だけやりたい、と意思がはっきりしている人はギャップを感じる可能性があります。
まとめ
現代社会では紙の本だけではなく、電子ブック、動画データ、音声データなど様々な情報の媒体があります。知識と情報が爆発的に増加する社会で、国立国会図書館の担う役割も変化を迎えています。
この記事を読んだ方で、新たな社会で知識を支える国立国会図書館司書のシゴトに興味を持っていただけたなら幸いです。
参考にしたサイト
キャリアガーデン
https://careergarden.jp/kokkaitoshokanshokuin/
国立国会図書館
https://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/index.html
国立国会図書館キッズページ
https://www.kodomo.go.jp/kids/ndl/service/report.html
職業情報提供サイト(日本版O-NET)
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/182
13歳のハローワーク
https://www.13hw.com/jobcontent/03_03_02.html
スタディサプリ進路
https://shingakunet.com/bunnya/w0012/x0171/