刑務官とは
広辞苑には「刑事施設の職員のうち、法務大臣が指定した者。矯正監以下看守までの各階級に分かれる。旧称『行刑官』」と記載されています。
刑務官は、法務省矯正局の国家公務員です。原則として刑務所、少年刑務所または拘置所に勤務しています。施設の運営や受刑者の更生・指導を行うシゴトです。
仕事内容
刑務官のシゴトは大きく以下の4つに分けられます。
・刑務作業の監督・指導
・矯正教育・生活指導
・点検・巡回
・事務作業
それぞれ確認していきましょう。
刑務作業の監督・指導
刑務所で受刑者は日々労働を行っています。単純作業から、技術が必要なものまで様々です。刑務官は、受刑者を工場やその他作業をおこなう場所へと引率し、現場でトラブルや規則違反を犯す者がいれば制止して、適切に振舞うように指導します。
ドラマの中で刑務官は怖い人物像で描かれていたり、厳しいイメージが前面に出た演出がされていたりしますが、その目的は受刑者の生活意欲や労働意欲を高めさせることにあります。ただ厳しいというだけではなく、時には受刑者と向き合ってカウンセリングを行なうことや、資格・免許取得のサポートを行うこともあります。
矯正教育・生活指導
受刑者の出所後の再犯を防ぐために矯正・生活指導を行うことも刑務官の重要な役割の一つです。生活態度を改めさせることで受刑者の考え方が変わり、再犯率低下につながります。
時には厳しく、時には優しく寄り添い受刑者をサポートします。心理カウンセラーなど、外部の専門家を雇い、ともに矯正教育を行う場合もあります。
点検・巡回
刑務官は時間を決めて点検や巡回業務を行っています。主な点検や巡回業務は、「開房点検」と「閉房点検」の2種類です。
開房点検とは朝、受刑者全員が決められた時間に起床できているかどうかを確認する業務です。毎朝同じ時間に起床することは、受刑者の生活態度を矯正する上で重要な習慣になります。
閉房点検とは、刑務作業を終えた受刑者が全員所定の場所に戻っているかを確認する業務です。刑務作業を行なう場所は離れた場所にあるため、移動する必要があります。
受刑者たちが眠っている間にも巡回を行い、脱走や脱獄を未然に防ぎます。
事務作業
報告書の作成や郵便物の管理、各種証明書の手続きなども刑務官の業務です。庶務や会計を扱う、事務専門の部署もあります。こうした部署は受刑者と顔を合わせることは少ないですが、所内で何かが起こったときには対応できるように、すべての刑務官が訓練を受けています。
刑務官とは受刑者の生活を監督し、時には指導を行うことで更生とスムーズな社会復帰を促すシゴトだとまとめることができます。
刑務官のなり方
刑務官になるのに特別な学歴や資格は必要ありませんが、試験では高校卒業レベルの知識が求められます。
刑務官になる流れは以下の3通りです。
① ② ③
高校卒業 高校卒業 高校卒業
↓ ↓ ↓
(専門,短大,大学) (専門,短大,大学) (専門,短大,大学)
↓ ↓ ↓
刑務官採用試験 武道拝命 国家公務員総合職試験
↓ ↓ ↓
初等科研修 初等科研修 法務省より刑務官を拝命
↓ ↓ ↓
刑務官 刑務官 初等科研修
↓
刑務官
実際はほとんどが①の、「刑務官採用試験」を受験する方法での採用となっています。それぞれのなり方をまとめていきます。
①刑務官採用試験
刑務官になる人のほとんどは刑務官採用試験を受験するこのルートを通っています。試験後、合格者は刑事施設で採用のための面接を受けます。この面接に落ちてしまうと翌年試験を受けなおさなければならないのですが、採用漏れはほとんど起こらないので安心してください。試験に合格しさえすれば基本的に刑務官になることができます。
それでは、試験について簡単にまとめます。
受験資格
受験年の4月1日時点で「17歳以上29歳未満」の男女に受験資格が与えられます。学歴や資格などその他の条件はありません。社会人枠の試験もあり、そちらは「29歳以上40歳未満」の男女が条件となっています。
試験内容
試験は一次試験と二次試験に分かれています。
一次試験は、基礎能力試験と作文試験の二種類の試験が行われます。
二次試験では、人物試験に加え身体検査や身体測定、体力検査が行われます。
一次の基礎能力試験は公務員としても必要な基礎的能力について問われます。40問ある問題を90分で解答します。最も配点比率が高いため、重要になります。
作文試験は一般的な表現力や、問題を読み取る理解力が問われます。最低限の理解力と文章力があれば問題ありません。
一次試験に合格した者のみが二次試験を受けることができます。
二次試験の人物試験は個別の面接方式で、人柄やコミュニケーション能力があるかどうかを採点されます。体力検査や身体測定は、最低限の運動能力を確認するもので、重要ではありません。二次試験で最も重要なのは個別面接です。
試験日程
試験は1年に1回行われています。毎年一次試験が9月下旬に、二次試験が10月下旬に行われます。受験申込みは7月に行われるので受験希望者は忘れないようにしましょう。
試験は全国の主要都市で行われるので、自宅から近い都市での受験が可能です。
刑務官採用試験については以上です。例年合格率は30%程で、難関とまではいきませんが決して簡単なものではありません。しっかりと準備・対策を行って試験に臨みましょう。
②武道拝命
通常の試験とは別に、刑務官の採用には「武道拝命」という枠も存在しています。
武道拝命とは、過去に柔道や剣道に従事した有段者などが、その功績を認められて採用される制度です。主に武道訓練の指導者や要員としての働きを期待されていて、なかには国体や全国大会入賞者クラスの人もいます。
③法務省より刑務官を拝命
ごく少数ですが、法務省職員から刑務官を拝命するケースもあります。
このルートはまず国家公務員総合職試験に合格して法務省に入る必要があるため難易度が非常に高いです。刑務官全体の約1%ほどしかいません。このルートで刑務官になるのは管理職候補であり、刑務所の現場に出て働くことはほとんどありません。
刑務官になるのには以上の3つのルートが存在していますが、ほとんどは①の試験を受けるルートです。
刑務官としての採用が決まった後全員が受けることになる「初等科研修」についてまとめます。
初等科研修について
「初等科研修」は、合計8ヵ月の研修期間のことを指します。刑務官を拝命した者が、必ず通る道です。この研修は大きく分けて、拝命施設(配属先)にて行われる「自庁研修」と(約5ヵ月半)矯正研修支所にて行われる「初等科集合研修」(約2ヶ月半)になります。
「自庁研修」と「初等科集合研修」の二つの研修を修了して、初めて「初等科研修」が修了となり、晴れて刑務官デビューとなります。
自庁研修
働き始めの二週間ほどは自分の所属する施設で敬礼や号令のかけ方、簡単な座学を学びます。
その後は見習い看守として上司とともに働きます。自庁研修という名前がついていますが、その他一般企業の研修と変わらない内容1です。
自庁研修が始まりしばらく過ぎた頃に集合研修の通知が届き、招集されます。集合研修後は再び自舎にて自庁研修を行います。そのため初等科研修の流れは、
自庁研修(1回目)→初等科集合研修→自庁研修(2回目)
となります。
初等科集合研修
集合研修は同期の仲間と2ケ月半の集団(寮)生活の中で、刑務官に必要な体力や知識、技術を身に着ける研修です。平日は毎日決まった時間に寝て決まった時間に起きる生活です。朝起きたら点呼を取って掃除、掃除後にランニング、ランニング後は…というようにスケジュールが綿密に組まれています。休みの前日は外出自由で、日曜の夜に寮に帰ってくるのであれば外泊も可能です。
集合研修の間も給料が出るので、しっかり勉強しましょう。
以上の初等科研修を終えて、研修生は一人の刑務官となります。試験対策から受験、合格後の採用面接、初等科研修と合わせると刑務官になるにはそれなりの時間がかかります。目指す方は計画を立ててしっかり準備・対策しましょう。
勤務先について
刑務官は、法務省矯正局の国家公務員として、各刑事施設(刑務所や拘置所)に採用されて働きます。勤務先となる刑事施設は東京にもその他の各地方にもあります。希望の勤務先を第5希望まで提出することができますが、必ず希望先の配属先になるわけではありません。また、刑務官に特有の事情として、階級によって転勤する頻度と転勤先に変化が生じる点が挙げられます。
新人や若手の下級職員は8年〜10年おきに異動するケースが一般的で、国家公務員のなかでは転勤する回数はかなり少ないです。
転勤先についても前勤務地の近辺や同管区内が多く、引っ越しなどの負担は軽めです。
しかし、幹部や上級職員になると、異動は2〜3年ごとの短いスパンとなり、転勤先についても管区に関係なく全国の施設が対象になります。
刑務官の年収
人事院の行う「平成30年国家公務員給与等実態調査2」によると、刑務官の平均月収は、31.7万円、賞与が139.5万円で、平均年収は589万円です。日本の給与所得者の平均年収である436万円3と比較すると高い水準になっています。
刑務官は受刑者と接する特殊なシゴトであり、精神的に負担がかかりやすいため、他の国家公務員よりも給料が12%ほど高く設定されています。福利厚生も充実しており、収入面は非常に安定したシゴトです。
独学でなれるのか
刑務官試験はその他の公務員試験と比べると難易度も倍率も低いため、独学での合格がかなり現実的です。実際に独学で合格する人も多くいます。
ただ通信講座や予備校、専門学校なども多くあるので活用するのもひとつの手段です。
休日について
刑務官のシフトは日勤、夜勤に分けられます。刑務官の夜勤とは夜の間だけ働くことではなく、24時間フルタイムで働くことを意味します。夜勤の後は2日ほど休みになることが多いです。例えば、夜勤→非番4→休み→日勤→夜勤→非番→休みというような1週間のスケジュールになります。基本公務員は土日祝日が休みですが、シフト制の刑務官はカレンダー通りの休みにはなりません。
スケジュール例
ここでは夜勤(24時間勤務)の1日のスケジュール例を紹介します。日勤のスケジュールは以下と同じで、17時で勤務が終わるものと考えていただいて差し支えありません。
07:00 出社
07:30 巡回・引率
12:00 昼休憩
13:00 巡回・引率
17:00 事務作業
19:00 巡回
22:00 仮眠
03:00 巡回
06:30 引継業務
07:30 退社
朝7時前には出社し、7時から勤務開始です。朝は巡回を行い、受刑者たちを作業場へ引率し、監督します。
昼休憩をはさんで午後も作業の監督、巡回を行います。受刑者たちの作業が終わると事務作業を行います。事務作業は報告書やレポートの作成です。
仕事の合間に夜ごはんを食べ、巡回を行います。仮眠を取った後朝まで巡回を行い、朝出勤の人が来ると引継ぎ作業を終えるとようやく勤務終了です。長い1日が終わります。
やりがい・魅力
受刑者は良識が欠けていたり規則を守らなかったりすることが多いです。彼らの扱いは難しく、改心、更生するには時間がかかります。だからこそ受刑者が心を入れかえて社会復帰した時や改心した時はよい気持ちになります。こうした姿を見ることがモチベーションになります。
国家公務員であるため、給料が比較的高いのが刑務官の魅力のひとつと言えます。国家公務員のわりには転勤が少ないのも働きやすいと言えます。
大変なこと・つらいこと
なかなか言うことを聞かない受刑者たちを引率したり、刑務所内で起きたトラブルに対応したりとストレスがたまりやすいシゴトです。体力的にも精神的にも強い人が向いている職業です。
24時間シフトがあるため、生活リズムが不規則になりやすいという特徴があります。
稀ですが、拘置所勤務の場合は死刑執行に立ち会うこともあります。人の死に立ち会うというのは心の負担になります。
向いている人
正義感が強く、真摯に受刑者と向き合うことができる人、体力と精神力がある人が向いているシゴトです。一度道を過ってしまった人々の社会復帰をサポートするためには胆力が必要になります。
また運動能力やコミュニケーション能力といった基礎的な能力も様々な場面で重要になってきます。
刑務官の記事、いかがでしたか。
皆さんの刑務官というシゴトに対するイメージが広がり、少しでも参考になったのなら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考にしたサイト
・人事院ホームページ
・法務省ホームページ
・キャリアガーデン
・スタディサプリ
https://shingakunet.com/bunnya/
- ビジネスマナーや施設内のルール、業務内容の確認など
- https://www.jinji.go.jp/kankoku/kokkou/30kokkou.html
- 国税庁 令和元年 民間給与実態統計調査を参照https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2019/pdf/001.pdf
- 勤務がないという意味。当番(勤務)の反対の意味で使用される言葉。休みとほとんど同じ意味を持ちます。