司法書士とは
広辞苑には「他人の依頼を受け、簡易裁判所における民事訴訟手続、登記・供託に関する手続などについて代理し、また裁判所・検察庁・法務局・地方法務局に提出する書類の作成を業とする者」と記してあります。
上記を踏まえて司法書士とは、法律の知識に基づいて書類作成を行い、個人の権利を守るシゴトと簡単にまとめます。
司法書士と行政書士の違い
司法書士とよく似たシゴトに行政書士があります。どちらもクライアント1の代わりに書類を作成するという業務が共通しています。
異なっているのは書類の提出先です。行政書士は市町村長への書類提出、司法書士は法務局・裁判所への書類提出が主な業務であり、業務分野が分かれています。もっとも、重複している分野も多くあります。
細かい違いはたくさんあるのですが、司法書士の特徴は「業務範囲は狭いがより専門性が強いこと」、行政書士の特徴は「取り扱える分野が広いこと」と認識していれば問題ないです。
それでは、司法書士の具体的な仕事内容を確認しましょう。
仕事内容
司法書士の主な業務内容は
登記業務
書類作成業務
訴訟代理業務
相談・コンサルティング業務
の4つです。それぞれ解説します。
登記業務
登記とは、個人・法人・不動産などが重要な権利や義務などを社会に向けて公開することです。登記制度とはそれら2を保護した上で取引を円滑にするために定められている法制度の一つです。個人や企業は登記することで社会的な信頼を得ることができ、第三者に対して権利を主張することができるようになります。難しいので、例を挙げます。
例えば「不動産登記」という、そこがどのような土地・建物なのか、権利関係はどうなっているかを明確にするための登記があります。不動産登記が無ければその住宅を借りるためのローンを組むことができなかったり、土地の所有者が所有者であることを証明できなくなってします。
登記があることで確かな情報が開示され、公正な取引が可能になるのです。この登記を行うのが司法書士の主なシゴトであり、独占業務です。独占業務とは、資格を有する者でなければ携わることを禁じられている業務のことです。つまり、この登記業務は司法書士にしかできないシゴトということになります。
登記の例として、「不動産登記」「商業登記」「船舶登記」「法人登記」などが挙げられます。
書類作成業務
法務局や裁判所に提出する書類は、高度な専門知識を必要とする複雑な内容のものがほとんどです。そのため作成や提出手続きについてはクライアントに代わって司法書士が代行することが一般的です。
司法書士が代行する書類として以下のものが挙げられます。
遺言書などの相続関係書類
離婚協議書
内容証明書
公的な性格の強いものが大半であり、民間取引における契約書などを作成するケースもあります。また市役所などの役所に提出する書類に関しては、行政書士と仕事の範囲が重複している所もあります。
訴訟代理業務
平成14年の司法書士法改正によって、目的価額140万円以下の案件については、依頼者の代理人となって相手方と調停交渉したり、訴訟を起こす裁判手続きを行うことが司法書士でも可能になりました。
現在では多くの司法書士事務所が、弁護士の経営する法律事務所と同様、消費者金融などに対する過払い金請求手続きなどを行っており、今後も少額訴訟における司法書士の弁護活動はより積極化していく見通しです。
相談・コンサルティング業務
各種法律問題に関する相談を受けたり、コンサルティングを行う業務があります。わかりやすい例は、遺言書の作成や遺言の証人になるという業務です。
遺言書を公正証書3として遺す場合、立ち合い証人が必要となりますが、司法書士はこの証人として認められています。また遺言を執行する方の財産管理なども業務として行うことができます。親族が亡くなった時など、司法書士の業務はたくさんあります。
以上が司法書士の主な業務です。少し難しいですね。司法書士は適正な登記を提出することで人々の権利と財産を守っているということです。次の章ではなり方をみていきましょう。
なり方
司法書士になるためには、まず国家試験である「司法書士試験」に合格しなければなりません。合格後は決められた手続きを踏み「司法書士会」に入会します。入会後は研修を受け、それぞれ就職活動を行います。試験に合格して研修を修了しても、就職先が決まらなければ司法書士として働くことはできません。ですが独占業務があり需要の減らないシゴトですので、就職活動がうまくいかず就職できないケースはほとんどありません。
以下は司法書士になるまでの流れです。
司法書士試験受験
↓
合格
↓
司法書士会に入会
↓
研修
↓
司法書士として働く
司法書士試験について
受験資格
司法書士試験は一次の筆記試験と二次の口述試験に分かれます。
一次試験に受験資格はありません。極端な話小学生や中学生でも受験することができます。二次試験は一次試験合格者のみが受験可能です。
一次試験は毎年7月の第1、または第2日曜日に実施されます。
試験内容
一次試験は11科目から70問の択一式の問題が出題されますが、主要な4科目から50問以上出題されます。そのため主要科目に重点をおいて勉強すると効率がいいです。
主要科目:「民法」「不動産登記法」「商法(会社法)」「商業登記法」
その他科目:憲法、刑法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、司法書士法、供託法
二次試験の試験内容は公式には筆記試験と同じ内容であるとされていますが、実際には「不動産登記法」「商業登記法」「司法書士法」の3つの科目からしか出題されません。
口述試験は面接官から口頭で問題を出され、それに対して口頭で回答する面接方式です。回答の精度のみならず、論理的に説明できているかどうかも重要なポイントです。面接は筆記試験を突破できる方であれば難易度は高くありません。そのため、例年ほとんどの人が合格しています。難関は一次試験だということができます。
試験日程
4月:願書配布期間
5月:願書出願期間
7月:一次試験
8月:基準点発表(一次試験正解発表日)
9月:一次試験合格者発表
10月:二次試験
11月:最終合格者発表
例年4月中旬に全国の法務局や地方法務局で受験申請書配布が始まります。
出願期間は例年5月上旬〜中旬頃です。
一次試験は例年7月で、第1または第2日曜日に全国の試験会場で実施されます。
基準点発表日は例年8月中旬頃です。
例年9月下旬〜10月上旬に一次試験合格者が発表されます。
例年10月中旬頃、筆記試験の合格者を対象に口述試験が実施されます。
最終合格発表は例年10月下旬〜11月上旬頃に行われます。
最終合格率は例年4%ほどで、難関中の難関です。
司法書士試験合格後
司法書士試験に合格後は全国都道府県の司法書士会に登録します。その際書類の準備や費用が必要になります。司法書士会に登録後は新人向けの研修を約4カ月間ほど受けます。研修は「中央研修」「ブロック研修」「司法書士会研修」の3つに分かれており、それぞれの受講料を合計すると約20万円となります。
司法書士試験合格後にお金が必要になるので、あらかじめ用意しておきましょう。
新人研修を受けながら就職活動をする人もいれば、3月に全ての研修が終わった後に就職活動する人もいます。多くの人は研修修了後の3〜5月に就職活動を行います。勤務先が決まると司法書士として働き始めます。
司法書士の雇用形態・所属先
司法書士の進路として最も多いのは司法書士事務所に勤めるケースです。その他には自分で開業するケースと一般企業に勤めるケースもあります。
司法書士事務所の正社員の募集は、司法書士有資格者、またはある程度の法律知識を備えた「司法書士補助者」としての採用が一般的です。
ただし、未経験者であっても、事務所によっては一般事務スタッフとして正規採用されるケースもあります。
正社員の業務内容は、依頼者との面談から書類作成・裁判所や法務局への外訪など多岐にわたるので、さまざまな経験を積むことができます。
とくに将来的に独立を検討している人については、正社員として働く期間は、開業した後に必要な実務能力を身につけるための修業期間と捉えることもできます。
一方司法書士になってすぐに独立する人は非常に少ないです。独立希望の人も始めは司法書士事務所に勤めて経験を積みます。経験値を上げてお金をため、人脈を培うなどして、万全の状態で開業に臨みましょう。
近年は一般企業に就職して、その中で企業司法書士として働く人が増えています。一般企業では、司法書士の独占業務以外にもいわゆる普通のシゴトをすることも多いので、社会人スキルを身に着けることができます。
司法書士の年収
・日本司法書士会連合会の司法書士実態調査4を参照しました。
全ての司法書士の平均年収は約681万円です。民間企業の平均年収の436万5と比較すると高い水準になっています。
司法書士の平均年収は実績や勤務先、地方か都心部かによって幅があります。また、独立か開業か企業勤めか、小規模な事務所か大規模な事務所かといった要素でも年収は変わると考えられます。
学歴・資格
司法書士に学歴は関係ありません。受験資格が無く誰でも受けることのできる試験ということもあり、実際に多くの高卒者が合格しています。試験の合格率と学歴に相関関係は見られておらず、学歴があるから有利だったり、学歴がないから不利だという事実はありません。また、司法書士になるための資格は司法書士試験のみです。一本に絞って尽力しましょう。
独学でなれるのか
独学でもなれるが、難しいというのがシゴトニンラボの考えです。
独学のメリットを挙げます。
・コストがかからない
・自分のペースで勉強を進められる
・大学や仕事と両立しやすい
対してデメリットは
・効率よく勉強するのが難しい
・モチベーションキープが難しい
・情報集めるのが大変
などが挙げられます。
予備校に通ったり通信講座を受講するにはお金がかかります。経済状況や環境に応じて自身にあった勉強方法を選びましょう。
スケジュール例
司法書士の仕事は、事務所内での書類作成や必要な情報を集めるための各所への連絡が中心となります。今回は不動産登記を主業務とする事務所で働く司法書士の1日を紹介します。
07:00 起床
08:30 出社
09:00 ミーティング
09:30 仕事
12:00 昼食
13:00 仕事
18:00 事務作業
20:30 帰宅
出社するとまずはメールチェックや1日の流れを確認します。ミーティングで扱っている案件、事務所スタッフに頼んでいる業務について、進捗状況など現状の確認と共有を行います。不動産業者または金融機関から決済日の2~3週間くらい前に決済日の連絡があって、案件を受注します。その後、決済に向けて印鑑証明書や売買契約書、融資証明書といった必要な書類を集め始めます。
不動産業者に連絡をして、「対象物件はどんなものですか」「固定資産税の評価証明書を送ってください」というやり取りを行います。
不動産業務を行う事務所は相続登記業務も扱っていることが一般的で、その場合は戸籍謄本などの証明書が必要となるため、役所とのやり取りも発生します。
売主や買主に、住民票をはじめ書類手配の連絡をします。金融機関や不動産業者、お客さんと連絡を重ね、書類の内容を確認するなどのやり取りを繰り返します。忙しい時期には、それだけで1日が終わることもよくあります。
やりがい・魅力
独占業務を持っており、司法書士にしかできない業務で困っている人々の役に立つようなシゴトをしていることに魅力を感じます。年収が高いこともモチベーションアップにつながっています。
司法書士試験は非常に難易度が高く、数が限られているため求人が多いです。一度資格を取ればシゴトがなくなることがありません。その安定性が魅力です。
大変なこと・つらいこと
司法書士が扱う土地や建物、あるいは法人に絡む権利関係は、いずれも社会的価値・金銭的価値が非常に高いものです。複数の関係法規や多数の当事者が絡むため、複雑になりがちな裁判所や法務局での手続きも一切のミスが許されません。このプレッシャーは大きなものです。
職場によって違いはありますが、司法書士は一般的に一人で数多くのことをこなす必要があります。書類作成などのデスクワークに加え、法務局や裁判所での事務手続き・金融機関とのやり取りなど、事務所内外で多様な業務があり、一日中忙しく走り回ることもあります。
向いている人・適性
たくさんの書類に目を通し、高度な法律に関する専門知識を扱うためには、高い事務処理能力と論理的思考力が求められます。また直接クライアント(依頼主)と直接話す機会も多いので、コミュニケーション能力が求められます。
独立する開業者であれば、経営者として先を見越す力や人脈をつくっていく営業力も必要になります。
以上で今回の記事は終わりです。
法律の専門知識を扱うシゴトであり、難しい内容でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
最後に、参照したサイトを載せておきます。
参考にしたサイト
・日本司法書士連合会
https://www.shiho-shoshi.or.jp/
・法務局
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/index.html
・キャリアガーデン
・スタディサプリ
https://shingakunet.com/bunnya/
・スタンバイ
- 依頼人のこと
- 登記により公開された重要な権利や義務
- ある契約(お金を伴うことが多い)において公証人がその内容を証明するための書類。離婚時や相続の契約で多く用いられる
- https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2019/12/dc126f7cffa47b96f0b38e8fcf2a83fe.pdf
- 国税庁 令和元年 民間給与実態統計調査を参照https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2019/pdf/001.pdf