今回紹介するシゴトは通訳です。私は通訳というと、テレビ番組に出演しているアーティストの隣で耳打ちしている人しかイメージが湧きません。ですが、通訳のシゴトはそれだけではありません。会議やプレゼンテーション、日常会話など多くの場で通訳者は活躍しているようです。
しかも、通訳と一口に言ってもその種類は色々あるようです。この記事では通訳のシゴトについて、詳しい内容を一緒に見ていきましょう。
仕事内容
通訳する言語は?
そもそも通訳者はどのような言語を通訳していると思いますか。ここで日本通訳学会の『日本における通訳者のキャリア開発プロセスにおける実態調査1』の調査を見てみましょう。
この調査では「通訳をする外国語」に関して通訳を生業とする198人に調査をしています。結果を見てみましょう。
・英語…186人
・中国語…7人
・ロシア語…3人
・スペイン語…1人
・インドネシア語…1人
・複数言語…9人
この調査は複数言語との重複が入っているため、回答が母数より多くなっています。結果を見てみると、英語の通訳をしている人が圧倒的に多いことがわかります。さらに複数言語を回答した人も全員が英語を学んでいます。このことから、英語の通訳の需要は圧倒的に高いということがわかります。
さらに通訳者の仕事は主に4つに分かれます。それぞれ見ていきましょう。
アドホック通訳
アドホック通訳の「adhoc」とは、「特定の目的のための、応急的な」という意味の形容詞になります。ここでは即席、応急的なという意味合いが強く、アドホック通訳は少人数の人が日常的な話をする場合の通訳を指します。例えば日本の政治家とアメリカの政治家が2人で挨拶をするときや簡単な会話をするときの通訳です。少人数の人が1人の通訳を通して会話をします。
相手の言っていることを相互的に伝えるもので、状況に合わせて相手の言いたいことを伝えることがポイントになります。
逐次通訳
逐次(ちくじ)通訳は話し手が話を区切りながら喋り、通訳者がその部分までを通訳する方法です。話の内容を覚えている必要があるため、メモを取りながら通訳することもしばしばあります。
一人の話し手の言葉を大勢の聞き手に伝える際によく用いられる手法です。著名人の講演・インタビュー、外交交渉・会議・スピーチ・製品発表会など、専門的な内容を含む場合も多いです。重要な場面が多く、正確に訳す力が求められる責任重大なシゴトです。
同時通訳
同時通訳は通訳者が「ブース」と言われる通訳室に入り、話し手の言葉を同時進行で通訳していく方法です。テレビや国際的な討議やプレゼンの場など、比較的大規模な場でのシゴトが主になります。また国際的な場だと使う言語が複数になることもままあります。
同時通訳では話し手の言葉や話の内容を理解して、同時に通訳もしなければならないため、高い集中力が必要とされるシゴトです。そのため何人かのチームを組んで15~30分程の交代制でシゴトをすることが多いです。
ウィスパリング
ウィスパリングは同時通訳と似ています。同時通訳とやることは同じですが、通訳がどこに向かって話すのかという点が異なります。「ささやく」という言葉の通り2、ウィスパリングでは通訳者は聞き手のそばに立って耳元で直接ささやくように通訳を行います。
テレビ番組や会議、対談で多く使われる方法です。
通訳者のシゴトの流れ
次に、通訳の一般的なシゴトの流れについて紹介します。
個人と専属で契約している通訳者を除いて、基本的に依頼を受けることでシゴトが始まります。基本的には「依頼を受注」→「事前準備」→「打ち合わせ」→「通訳業務(本番)」となります。
事前準備から確認していきましょう。
事前準備
通訳のシゴトを受けたら、まずは通訳に必要な情報や知識を集めることから始めます。
通訳に必要な情報とは、受注したシゴトの分野に関する情報です。例えば環境問題に関する講演の同時通訳のシゴトなら、あらかじめ環境問題に関する専門用語を確認するなど、事前準備を行います。通訳のシゴトは言葉を伝えるだけでなく、意味や内容を伝えることも含まれています。まずは自身が相手の話を理解することが大切になるため、受注したシゴトに関する情報を集めるのです。
この作業を怠ると場合によっては通訳の間違い、意味の取り違えが起きるため、この作業はとても大切です。
打ち合わせ
通訳当日までに関係者と打ち合わせをします。仕事の当日に直接打ち合わせをすることが多いですが、別日に電話で済ませることもあります。
打ち合わせではプロジェクトの内容や、通訳当日の会議の内容、どのようなコミュニケーションを取っていくのかなどについて話し合います。またクライアント3の要望や通訳の目的に関して再確認します。
通訳業務
打ち合わせが終了したら、いよいよ通訳業務が始まります。打ち合わせで確認した点に気を付けて業務をこなします。
続いて通訳のなり方についてまとめます。
なり方
通訳になるために学歴や資格は必ずしも必要ではありません。通訳は実力や実績が重要となるシゴトだからです。
ですが、通訳のシゴトは高い語学力が必要となるシゴトであるため、大学で学ぶ専門的な語学やTOEICのような資格試験の勉強はシゴトに役立つことが多いです。
では、語学力を身に着けるにはどうすればよいでしょうか。ここで日本通訳学会の『日本における通訳者のキャリア開発プロセスにおける実態調査』の調査を見てみましょう。
この調査では通訳者にどのように外国語を覚えたか調査しています。以下が調査結果になります。
・海外で生活した…35%
・留学した…30%
・日本の学校教育のみ…22%
・国内インターナショナルスクール…2%
・その他…11%
この調査はあくまで現在通訳者として働いている人に聞いたのであり、目指している人の多くが帰国子女であったり留学をしているとは限りません。
この調査を見ると、海外生活や留学を経験せずに通訳になっている人もある程度の割合でいることがわかります。ただ、調査対象の全体の65%が海外で生活していた経験があることを考えると、海外生活や留学が語学力を伸ばす一番の近道だと考えられます。
では以下ではより詳しく、通訳のスキルを身に着ける方法を紹介します。
大学の外国語学部で学ぶ
外国語を学ぶ大学と言えば東京外国語大学が有名ですが、他にも様々な大学があります。グローバル化に伴い、特に英語教育には多くの大学が力を入れています。
また文学・映画論・音楽論など他の分野の学問と、外国語を繫げた学部もあります。例えば英文学・ドイツ文学・フランス映画論などがあります。このように自身の趣味と語学を一緒に学べるような学部やコース選択をして、高いモチベーションを保ったまま外国語を学んでいく方法もあります。
「外国語を話せるようになるにはその国の恋人を作るのがよい」とはよく言われますが、何にせよ自身の中で外国語を学ぶ動機やモチベーションを再確認しておけば、高い意欲で学習することができるでしょう。
留学・海外生活をする
通訳は使用する言語を巧みに話す、聞く、書くことが出来なければなりません。
そのためには紙の上の学習だけでは補えない部分もあります。特に話すことに関しては人と交わらなければ出来ない部分が多いでしょう。
その能力を身に着けるために留学する人もいます。外国に長期間住むということは語学力向上だけではなく、その国の文化や社会動向、礼儀作法の把握、コミュニケーションの方法を体感することにも繋がります。留学するためには下地となる語学力も必要となりますが、現地でしか学べないことも多くあります。
外国人と話す場に参加する
話す・聞く能力を向上させるために外国人が多くいるコミュニティに参加するという方法もあります。
現在ではインターネットでもつながることができたり、外国人が多くいるサークルを探すこともできます。
事情により留学はできない、留学する前に多くの外国人と話したいという人などは国内でも経験を積めるような方法を探してみましょう。
資格試験の勉強をする
通訳には高い語学力が必要とされるため、シゴトに就くには自身の語学力を証明しなければなりません。通訳としての実績がある人は客観的にスキルの高さを証明できますが、経験がない人は通訳のシゴトの実績で証明することはできません。
そこで客観的な語学力の証明として役立つのが資格になります。
例えば英語だったらTOEICやTOEFLのスコアが高ければ、一定の語学力がある、と判断される可能性は高くなります。もちろん資格だけで通訳のシゴトに就くことはできないので、先述したような留学やサークル、学部での学びなどの「経験」も必要となります。
通訳の働き方
通訳のシゴトをするには、派遣会社に登録してシゴトを得るケース、フリーランスとしてシゴトを得るケース、知り合いや学校、団体から紹介してもらうケース、企業に属するケースがあります。
通訳を目指している多くの人にとっては、派遣会社に登録してシゴトを紹介してもらうことが一番の近道になります。
学生であれば先述したような方法で通訳者としての下地を作った後、大学のキャリア課や学部の教授に紹介してもらえないか頼むことが近道になります。もちろん求人が無かったり紹介できる人がいないこともありますが、通訳のシゴトをしたい意思を伝えておけばふとしたきっかけで紹介してもらえる可能性もあります。
フリーランスとしてシゴトを受けることは未経験の状態では非常に難しいです。今フリーランスとして活躍する通訳も、そのほとんどが経験を積み、人脈がある程度できた状態から独立しています。
雇用形態
先ほど書いた通り通訳のシゴトをするには、派遣会社に登録してシゴトを得るケース、フリーランスとしてシゴトを得るケース、知り合いや学校、団体から紹介してもらうケース、企業に属するケースがあります。またアルバイトとして雇われて通訳者としてシゴトをする人もいます。
ですが企業に属して通訳をする人はごく一部です。通訳者のほとんどは派遣会社に登録するか、フリーランスとして個人でシゴトを受注しています。
年収
令和元年に行われた『賃金構造基本統計調査4』によると、通訳の平均年収は497万円です。
日本の給与所得者の平均年収である436万円と比べると高い水準になっています。厚生労働省が行っている調査のため、もっとも信頼できるデータです。
その他の求人サイトや年収を独自に調査しているサイトによると通訳の年収は約400万円としているものが多かったです。
給料bank著『日本の給料&職業図鑑』によると、通訳の平均月給は50万円で、単純計算で年収は600万円程度になります。
このように通訳のシゴトは雇用形態や調査ごとに給与に差が出ますが、個人によってもさらに差があります。通訳はフリーランスとして活躍している人も多く、個人による年収のばらつきが大きいシゴトの一つといえます。
男女比
日本通訳学会の『日本における通訳者のキャリア開発プロセスにおける実態調査』の調査によると、プロの通訳者として収入を得ている通訳者の内、女性は91%、男性は9%と、女性の方が圧倒的に多いシゴトだということが分かります。
この調査は調査対象が200人とサンプルが少ないため多少の変動はありますが、日本の通訳者の割合は女性が80~95%ほどを占めていると考えられます。企業の女性従業員割合の平均は25%ほどなので、それと比べても女性が占める割合は非常に高いといえます。
女性の方が多い理由には、通訳者のシゴトに正規雇用が少ないことが関係していると考えられます。日本では女性の方が非正規雇用率が高く、最近では改善されてきたといえ、現在でも女性の非正規雇用率は高いです。そういった状況と通訳者のシゴトの非正規雇用率の高さも相まって、女性が多いと考えられます。
また、理系のシゴトは男性、女性は文系といった性別分業意識が関係していることも考えられます。実際にどうかは別として、女性の方が言語やコミュニケーションに長けている、という社会の意識が影響している可能性もあります。
学歴
通訳者になるために学歴は関係ありませんが、語学力を身に着けるためには大学や通訳学校に通うことが近道になります。では実際にどのような学歴の方が働いているのでしょうか。
『日本における通訳者のキャリア開発プロセスにおける実態調査』の調査を見てみましょう。
以下のデータは学歴ではなく「通訳技術の習得方法」の調査ですが、1つの参考になるかと思います。
・通訳学校…65%
・大学…11%
・大学院…10%
・独学…9%
・その他…6%
このように、通訳者になる人は通訳学校に通っている人が非常に多いことがわかります。次いで大学や大学院で通訳技術の習得をした人は21%と少なめです。この調査はあくまで「通訳技術の習得方法」であり「外国語の習得方法」ではないため、大学や大学院と答えている人が少ないと考えられます。
資格
『日本における通訳者のキャリア開発プロセスにおける実態調査』の調査によると、資格取得者はとても多いです。有効回答数は170人、複数回答を合わせた延べ人数は333人です。資格を持っていると通訳としての信頼が上がり、シゴトの受注をしやすくなります。
では資格保持者の主な資格の種類を実際に見てみましょう。
・英検1級…122人
・英検準1級…13人
・英検2級…3人
・英検準2級…1人
・通訳案内士(国家資格)…23人
・通訳検定…15人
また、TOEICやTOEFLのスコアの平均点は90%以上の得点率と非常に高い点数になっています。さらにTOEICの受験者106人のうち20人は満点の990点を取っており、高い語学力を持つ人が多いことがわかります。
ところで「通訳案内士」とはどのような試験なのでしょうか?内容を簡単にまとめます。
通訳案内士
通訳の唯一の国家資格であり、通称「通訳ガイド」と呼びます。
この国家資格は名称独占と呼ばれる資格で、この資格がなくとも外国人観光客のガイドをすることはできます。ですが「通訳案内士」と名乗ってガイドをするにはこの資格が必要になります5。
この資格は通訳とガイド両方の知識を問うもので、語学力だけではなく社会常識に関する知識も問われます。そのため一般常識試験(日本の地理や歴史、産業・経済・政治文化など)が存在します。
また二次試験では実際に外国語を使って通訳による案内をする必要もあります。高い知識と技能が必要とされる資格になります。
スケジュール例
通訳はその日の仕事内容や個人によってスケジュールは異なります。
企業内で勤務する場合は、基本的には一般的な社員と同様の働き方をすることになりますが、通訳の予定によっては一時的に不規則になる場合もあります。
フリーランスは不規則な働き方になることが多いです。以下ではフリーランス通訳者の1日を紹介します。
9:00 現場に出勤
9:30 担当者との打ち合わせ
打ち合わせではプロジェクトの内容や、通訳当日の会議の内容、どのようなコミュニケーションを取っていくのかなどについて話し合います。
10:00 通訳開始
打ち合わせが終了したら、実際の通訳業務を行います。話し手の感情、話の内容が伝わるように通訳をします。
13:00 通訳終了
14:00 帰宅・翌日の準備
必ずしもフルタイムでシゴトがあるわけではありません。昼間にシゴトが終わることもあれば、朝から晩まで働き続ける日もあります。
やりがい・魅力
自身の好きな言語や好きな文化圏の人に関われることが魅力と言えます。
今まで見てきたように、通訳者になるには高い語学力が必要とされます。そして通訳者になりたいと考えるほどに外国語を学んで実際のコミュニケーションに活かしたいと考える人には、その国や言語に何かしらの思い入れがなければモチベーションを保つことはできません。
ですが逆に言えば、通訳者になってシゴトをし続ければ、自身の好きな言語や文化圏に関わり続けることができます。
つらいこと・大変なこと
通訳のつらいことは、魅力の反面、つまり言葉を勉強し続けなければならないことにあります。
言葉は日々変わり、社会も日々変わっていきます。そういった変化に適応するために語学を勉強し続けたり、ニュースなどの社会常識も学び続けなければならないことが通訳のシゴトのつらいことと言えます。
また、同時通訳などは特にテレビや公開会議など大舞台で意味を取り違えることなく通訳をする必要があるため、プレッシャーのかかるシゴトです。
そういったプレッシャーも通訳のシゴトのつらいことといえます。
今回の記事はこれで終了です。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう。
参考にしたサイト
キャリアガーデン
https://careergarden.jp/tsuuyaku/
職業情報提供サイト(日本版O-NET)
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/88
スタディサプリ進路
https://shingakunet.com/bunnya/w0006/x0088/
日本における通訳者のキャリア開発プロセスにおける実態調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/its/19/0/19_1906/_pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/its/19/0/19_1906/_pdf
- 「whisper(ウィスパー)」とは英語で「ささやく」という意味
- 依頼人のこと
- https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html
- 「通訳案内士」の資格を持っていない人が通訳案内士を名乗ってはいけないということ