学芸員とは
博物館法により博物館・美術館などに置かれる専門職員のことを指します。主に資料の収集・展示・調査研究などを行っています。
広辞苑には、「資料収集・調査研究・企画展示などを行う博物館・美術館の専門職員。博物館法に定める資格を必要とする。」と書かれています。
早速具体的な仕事内容を見ていきましょう。
仕事内容
学芸員職は欧米では「キュレーター」と呼ばれ、細かく専門が分かれていますが、日本の学芸員は数が少ないため、雑務を含め多くの作業を担当することになります。
博物館・美術館は、事務に携わる人、施設管理に携わる人、そして「学芸業務」に携わる人などさまざまな人達が連携して成り立っていますが、 その中でも、学芸業務をメインにおこなっている職員が「学芸員」です。ほとんどの場合、事務系の仕事場とは区別された学芸室や研究室と呼ばれる場所をメインに活動を行っています。
学芸員の業務として主なものが「研究者として調査・分析」「資料の収集・保存」「展示の企画・案内」の3つです。それぞれ解説していきます。
研究者として調査・分析
学芸員は展示や館内実務をするのが主な仕事ですが、研究・分析を行う研究者としての側面もあります。研究・調査活動は学芸員の仕事の基本です。
各自の専門知識に基づいて技官や作業の補助員、事務職員などとも協力しながら研究や分析を進めます。博物館や担当分野によっては現場に長期間出向いて分析を行わねばなりません。研究・分析の成果を展示物とともに開示するほか、学術論文や書籍にまとめたり解説書や目録にしたりして学術分野に貢献します。
一般的に研究職というと、じっくりと机のうえで静かに仕事を進めているようなイメージがありますが、学芸員の場合、研究・調査活動と企画・展示活動を並行して進めていかなければならないため、思いのほか業務は多忙だといえるでしょう。
資料の収集・保存
学芸員の主な業務の一つとして、博物館の資料の収集や整理があります。ここでいう資料とは実物、標本、模写、模型、文献、写真、映像のことです。実物、標本は生きている植物や動物を含みます。
博物館・美術館にある資料や作品は、もともとは個人が所有していたものや他の博物館・美術館や自治体が所蔵していたものが多いです。学芸員は自分が所属している博物館・美術館に合わせて、資料や作品を全国から探してきて、譲ってもらったり売買契約を結んだりします。他の博物館・美術館に所蔵されている資料や作品の場合は貸し出してもらえるように交渉することもあります。
収集してきた資料の図録や目録を作ったり、ラベルを貼ったりして、デジタルによるアーカイブ化を行って整理します。
場合によっては標本や複製を作ったり、傷んでる資料を修理したりすることもあります。
こうして収集した貴重な資料は、埃・虫・湿気などのダメージを受けないような形にして適切に保存します。
状況によっては修理の修復や定期的な手入れを専門家に依頼します。文化を後世に残していくという、学芸員の大切な仕事です。
展示の企画・案内
展示をするときにどんなコンセプトの展示にするかを決めたり、資料ごとに説明パネルや写真、最近では外国人観光客向けに翻訳音声サービスなどを作成します。企画は常設展の一部展示替えという小規模なものから、企画展や特別展といった大規模な展覧会まで幅広く取り組みます。
展示構成はもちろん、チラシやポスターの制作ディレクション、展示業者手配、レイアウト図面の製作や図録原稿執筆など業務は多岐にわたります。企画の方向性、展示物が決定すると、実地での設営や展示物の搬入、デザインや観客のことを考えた会場作りを行っていきます。
その他にも細かい雑務や書類作成などの業務もありますが主なものは上記の3つです。
なり方
学芸員になるには学芸員資格取得は絶対条件です。学芸員のなり方(資格の取り方)は4通りあります。
「大学で指定の単位を取得して卒業」
「短大で指定の単位を取得し、学芸員補で3年」
「学芸員資格認定試験①」
「学芸員資格認定試験②」
それぞれ解説します。
大学で指定の単位を取得して卒業する方法
大学で必要な科目を履修して資格を取得するという方法です。博物館に関する科目を修得した後、大学を卒業し、学士の学位を取得すると、学芸員の資格が授与されます。
必要な科目を履修できる大学は、平成31年度の時点で全国に約304校あります。
博物館に関する科目とは、生涯学習概論2単位、博物館概論2単位、博物館経営論2単位、博物館資料論2単位、博物館資料保存論2単位、博物館展示論2単位、博物館教育論2単位、博物館情報・メディア論2単位、博物館実習3単位です。
学芸員のほとんどはこの方法で資格を取得しています。
短大で指定の単位を取得後、学芸員補として3年働く方法
短大(大学)に2年以上在学し、博物館に関する科目の単位を含めて62単位以上を修得した者で、3年以上学芸員補の職に就いた場合も学芸員の資格を取得できます。学芸員補とは学芸員の補佐を行うシゴトで、なるために特別な資格はありません。博物館の求人に募集して採用される必要があるので、ほとんどの学芸員補は学芸員志望です。
学芸員資格取得に必要な大学の情報はこちらを参照ください。
文化庁ホームページ https://www.bunka.go.jp/
学芸員資格認定試験①
試験認定と呼ばれる資格の取得方法です。
試験認定は筆記試験のみが行われます。この試験に合格すると筆記試験合格証書が授与されます。その後、筆記試験合格者が合格後1年間学芸員補の職を経験し、文部科学大臣に認定されることにより、合格証書が授与され、学芸員となる資格を有することになります。
筆記試験では、必須8科目(生涯学習概論、博物館概論、博物館経営論、博物館資料論、博物館資料保存論、博物館展示論、博物館教育論、博物館情報・メディア論)に加えて、選択科目である文化史、美術史、考古学、民俗学、自然科学史、物理、化学、生物学、地学から2科目について回答します。
受験するためには、下記のいずれかの受験資格を満たしていなければなりません。
- 学士の学位を有する者
- 大学に2年以上在学し62単位以上を修得した者で2年以上学芸員補の職にあった者
- 教育職員の普通免許状を有し、2年以上教育職員の職にあった者
- 4年以上学芸員補の職にあった者
- その他文部科学大臣が上記の資格保持者と同等以上の資格を有すると認めた者
学芸員資格認定試験②
審査認定と呼ばれる資格の取得方法です。
審査内容は書類審査と面接です。
下記のいずれかの条件を満たしていれば、学芸員資格審査を受けることができます。
1.修士若しくは博士の学位又は専門職学位を有する者であって、二年以上学芸員補の職にあった者
2.大学において博物館に関する科目(生涯学習概論を除く。)に関し二年以上教授、准教授、助教又は講師の職にあった者であって、二年以上学芸員補の職にあった者
3.次のいずれかに該当する者であって都道府県の教育委員会の推薦する者
(1)学士の学位を有する者であって、四年以上学芸員補の職にあった者
(2)大学に二年以上在学し、六十二単位以上を修得した者であって、六年以上学芸員補の職にあった者
(3)大学に入学することのできる者であって、八年以上学芸員補の職にあった者
(4)その他十一年以上学芸員補の職にあった者
4.その他文部科学大臣が前各号に掲げる者と同等以上の資格を有すると認めた者
以上の方法で資格を取得します。
ほとんどの人は短大・大学で指定の単位を取得し、学芸員資格取得予定者として就職活動を行います。就職活動に関して、その他の業界と比べて変わっている所はありませんが、求人が少なく、倍率が高いのが特徴です。
学芸員の就職先
学芸員の就職先となる博物館は、歴史博物館、美術館や自然科学館、水族館や動物園、植物園など様々です。法律上では、博物館は「登録博物館」「博物館相当施設」「博物館類似施設」の3つに分けられています。ここでは3つの博物館について簡単にまとめます。
登録博物館
登録博物館は地方公共団体や一般社団法人などが運営する施設で、館長や学芸員がいることや、年間150日以上開館することなどが条件になっています。
博物館相当施設
博物館相当施設は学芸員に相当する職員がいることや、年間100日以上開館することなどが条件です。
博物館類似施設
特に条件はありませんが、登録博物館や博物館相当施設と同じような活動を行っている施設のことです。
全国に「登録博物館」は約910館、「博物館相当施設」は約350館、「博物館類似施設」は約4500館あります。
雇用形態
まず、学芸員の働く博物館施設は2種類に分かれています。私立のものと公立のものです。
博物館を持つ企業(私立)は採用活動を行い、正社員やアルバイトとして学芸員を雇います。
一方公立の博物館施設は各地方自治体ごとに採用試験を行います。こちらもパートやアルバイトの採用を行っています。
いずれも正社員は募集が少なく高倍率なので、アルバイトとして入社し、正社員にランクアップすることを目指すのもひとつの手です。
私立の博物館の場合、正社員の待遇はその企業によって大きく異なります。公立の場合は地方自治体や独立行政法人などの定めている給料をベースに年収が決まることになります。公務員扱いなので収入は安定しており、経験を積めば仕事の幅が広がり、キャリアアップも可能になります。
また、派遣会社に登録し、派遣の学芸員として働く方法もあります。しかし派遣社員の場合でも学芸員資格はほぼ必須となっており、業務内容も正社員と差がありません。それでいて給料やその他の待遇は正社員と比べて明らかに劣るので、基本的にはお勧めできません。
フルタイムで働くのが厳しい主婦や正社員でなくとも学芸員としての経験を積みたい、という人にお勧めです。
年収
シゴトニンTV調べでは、学芸員の平均年収は約350万円です。これは正社員、派遣社員、アルバイトを合わせた平均であり、正社員の平均年収は400万円を超えます。
民間企業の平均年収の436万円1と比べると、派遣社員は低い水準ですが、正社員は同等かそれ以上の収入です。ちなみに正社員の初任給の平均は約20万円です。
男女比
意外に思われるかもしれませんが、学芸員は女性のほうが男性に比べて人数が多いシゴトです。男女比は3~4:7~6です。特に美術館は女性が8割を超えています。しかし、館長は男性が84%を占めています。
学歴
学芸員になるには大学、または短大以上の学歴が必要になります。在学時に指定の単位を取得していると、比較的簡単に学芸員資格を得ることができます。
一方で学芸員補佐のシゴトである学芸員補には、高卒以上の学歴があればなることができます。
スケジュール例
・博物館勤務の場合
08:30 出社、メールチェック
09:00 会館準備
10:00 館内の案内、ガイド
13:00 昼休憩
14:00 展覧会準備
17:00 閉館、資料調査
19:00 退社
開館より早く出社し、メールチェックや学芸会議と呼ばれる会議を行います。開館準備は主に展示物の確認や掃除を行います。開館後は館内の案内やガイドを行います。休憩後も館内案内や展覧会の準備、資料調査などの業務を行います。開館時間と閉館時間が決まっているので残業は他のシゴトと比べると少ないです。
やりがい・魅力
博物館には貴重な資料や作品が所蔵されていますが、その管理や保存も学芸員の大切な仕事です。一つひとつの資料や作品の価値を自分の手で守り、伝えていくことができるのは、学芸員として働く大きなモチベーションになっています。
自分が企画し、形にした展示をお客さんが楽しんでいるのを見ると、苦労して準備したことが報われるような気持ちと達成感に溢れます。
給料が少なくても「この分野が好き」という人が職場に多いので、同じ趣向を持ついわば「同好の士」が見つかります。学校で知り合える友達とはまた違ったつながりがうまれ、自分を高めてくれる人や刺激を与えてくれる人に出会えることが多いことが魅力です。
大変なこと・つらいこと
高収入が見込みにくいという難点があります。当然企業や自治体によって差はあるのですが、昇給がほとんどない企業やボーナスがない企業も中にはあります。経済的な充実を求めていくのは難しく、結婚をして家族を養わなければいけなくなったときに転職をする人もいます。
学芸員というシゴトは博物館職員と、研究者という2つの顔をもっており、ハードワークに悩まされることが多いです。単純にやるべきことが多く、プライベートの時間が取れないこともあります。
以上で学芸員の記事は終了です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考にしたサイト
キャリアガーデン
文化庁
文部科学省
- 国税庁 令和元年 民間給与実態統計調査を参照https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2019/pdf/001.pdf