今回の記事では、外交官のシゴトについて紹介します。
外交官と聞くと、国際社会で他国を相手に交渉や調整をする姿をイメージする人が多いのではないでしょうか。実はこのようなシゴトは外交官のシゴトの一部であり、他にも多くのシゴトを行っています。
この記事では、外交官のシゴトについて詳しく見てみましょう。
仕事内容
外交官は、国外との交流を支え、日本の国益と平和、国際社会の発展に貢献するシゴトです。
外交官は「外務公務員」と呼ばれる、外務省で働く国家公務員です。外交官は霞が関にある本省、大使館のような「在外公館」で働いています。彼らは外交上の情報収集、交渉、広報などを行っています。
ここでは外交官の主な5つのシゴトについて見てみましょう。
外交交渉
外交交渉は、他国や国際機関との調整や交渉をするシゴトです。
経済や政治、文化のグローバル化が進展していく中で、国家は自国と他国の利益、損害、責任の調整をしなければなりません。外交官の交渉は主に私たちには見えない場所で行われています。
情報分析
情報を収集し分析することは、外交官のシゴトの中でも基本となるものです。
外交官は現地の国で日々情報を集め、情勢を外務省本部に届けます。こうして集められた情報は外務省に集約されて、公式発表や報道、文書となります。
また、現地の情報を収集するだけではなく、情報を分析して交渉に赴くことも必要です。
領事
領事とは、外国に滞在する日本人の保護や行政サービスを提供するシゴトです。
パスポートや証明書の発行や日本の選挙投票(在外選挙)の実施などの事務を行います。加えて海外で問題や危険が発生した日本人の保護、海外で政治や経済が不安定になった際の保護の役割も果たします。
開発協力
開発協力とは、十分な食料や水、教育や福祉を受けられない国の支援をすることです。
「南北格差」と言われるように、世界は北側に多い先進国と、南側に多い発展途上国とに分かれてしまっています。先進国が発展途上国を支援することは義務となっており、国際機関によって国ごとの支援の数値目標も決められています。このような援助を「政府開発援助(ODA)」と呼びます。
外交官は現地に住み、現地の人との対話や統計、現状を分析して必要な支援をします。例えば学校や井戸、病院などの公共施設の建設を計画したり、食料や水の配布を行います。
文化広報・文化外交
海外に日本の文化の魅力を伝えることも外交官のシゴトとなります。
例えば茶道や華道、落語などの伝統文化や伝統芸能から、日本映画、音楽、アニメ、マンガなど様々な日本文化を紹介しています。
また逆に現地の外国人が日本に来るプログラムの運営も行っています。こうした活動を通じて日本の魅力を知ってもらい、好意的なイメージを持ってもらうことも外交官のシゴトです。
なり方
外交官になるには2つの方法がありますが、公務員試験を受ける必要があることは共通しています。
国家公務員総合職試験、外務省専門職採用試験のいずれかに合格すれば外交官になることができます。この2つの試験に共通していることは、筆記試験と面接試験を受けることです。では、それぞれの試験内容を簡単に見てみましょう。
国家公務員総合職試験
国家公務員採用総合職試験は、政策の企画など将来の幹部職員候補を採用する試験です。
総合職試験は院卒者試験と大卒者試験と教養区分に分かれていますが、ここでは大卒者試験について見てみましょう。ちなみに教養区分は、専攻分野が既存の枠に当てはまらない学生や、社会人が受けることが多い試験です。
試験内容
・一次試験
■基礎能力試験(筆記)
一般知能、一般知識を問う試験で、「教養試験」と呼ばれています。教養試験はマークシートによる選択方式で行われます。
一般知能では文章理解という国語、語学の試験と、判断・数的推理・資料解釈という数的処理能力が問われる試験が行われます。
一般知識は自然・社会・文化についての試験です。数学や物理や化学といった理系の教科、国語や英語、世界史、日本史、政治経済といった文系の教科が幅広く出題されます。一般知識は高校で習う教科が広く出題されるといえます。
■専門試験(筆記)
専門試験は、様々な区分に分かれています。外務省は採用パンフレットで区分にとらわれない採用を行っていることを明言しているため、どの区分からも外務省に入省することができます。採用後の職務についても、試験区分による区別がないことも明言しています。
文系から外交官を目指す人は主に①政治国際②法律③経済のいずれかの区分の試験を受けることになります。これらのどれを受験するかで合格後の仕事内容が大きく変わることはありません。そのため自身が得意とする分野を選択することが良いでしょう。
・二次試験
■専門試験(記述式)
二次試験の専門試験は、一次の専門試験同様試験の区分により出題内容が異なります。この記述試験は、総合職試験全体の三分の一という大きな配点比となっています。先ほど挙げた3つの区分では、4時間の試験で合計3題の問題を解くことになっています。
■政策論文試験
政策論文試験では、120分間で1題の政策に関する論文が出題されます。
■人物試験(個別面接)
ここでは「人事院面接」と呼ばれる、官庁訪問とは別の面接が行われます。約20分ほどの面接で、面接カードと呼ばれる、企業のエントリーシートのようなものをもとに面接が行われます。人物試験の配点は五分の一を占めるため、対策は必須と言えます。
■官庁訪問
官庁訪問は国家公務員総合職試験の最終合格後に行われる、府省庁ごとの独自試験です。
官庁訪問は必ずしも説明会に参加する必要はありませんが、参加することがほぼ慣例となっています。その後訪問開始後に簡単な筆記や、エントリーシートをもとに数度の面接を経て採用となります。
合格倍率
人事院の『2020年度国家公務員採用試験実施状況』を参照して、大卒程度試験の合格倍率を見てみましょう。
■申込者数…14,965人(前年度15435人)
■第一次試験合格者数…2310人(前年度2322人)
■最終合格者数…1216人(前年度1145人)
この合格者の中から、官庁訪問を経て例年30人程度が外務省に配属されます。
『リクナビ2022』のデータを見ると、2020年度は30人、2019年度は28人、2018年度は28人となっています。これは院卒者と大卒者を合わせた数字のため、大卒者からの合格者は10〜20人程度と考えられます。
外務省専門職採用試験
外務省専門職員は、各言語の専門家、特定分野の専門家として活躍する外交官です。
外務省専門職員試験は外務省が独自に採用を行っており、一次試験と二次試験により合否が決まります。ここではその試験内容について見てみましょう。
試験内容
・一次試験
■専門試験(記述式)
専門試験は2時間、記述式で行われます。国際法は必須科目で、残りの憲法又は経済学から1題を選択して解答します。専門試験は配点の11分の2を占めるため、筆記の中で一番重要な科目となります。
■時事論文試験
時事論文試験は1時間30分、記述式で1題に解答します。
近年はオリンピックを日本が開催する意義と課題、ワークライフバランスの日本と海外の比較と意義と課題の説明などが出題されています。外務省だけあって、国際関係の時事論文が出題されています。
■基礎能力試験
これは「教養試験」と呼ばれる試験で、基本的な出題内容、出題数は公務員総合職試験と同じです。
■外国語試験(記述式)
外国語試験は2時間、記述式の試験です。
外国語文和訳2題、和文外国語訳が2題出題されます。こちらは15ヶ国語の中から1つの言語を選択します。
・二次試験
■外国語試験
二次試験の外国語試験は、面接で行われます。
この試験では、一次試験で選択した外国語による会話能力が問われます。
■人物試験
人物試験は個別面接2回、グループディスカッションが1回行われます。
面接は1回目は試験官4人、2回目は試験官5人による面接が行われます。志望動機や担当したい国などが問われる面接です。配点は11分の5と、最も比重が高い試験になっています。
8〜10人ほどで与えられたテーマについて討論します。テーマは国際的な時事問題が出る傾向があります。
■身体検査
胸部X線撮影などを含む、一般的な身体検査です。
年収
外交官平均年収に関しては、公的なデータはありません。そのためここでは総合職の職員が多い本府省課長補佐と、本府省課長の平均年収を見てみましょう。
『国家公務員の給与 令和3年度版』によると、35歳の本府省課長補佐のモデル月収は約44万円、年間収入は約734万円となっています。次に、50歳の本府省課長補佐の月収は約75万円、年間収入は1266万円です。
はっきりとしたデータはありませんが、一般職よりも階級が上がりやすいこと、将来的に幹部となることが前提となっている事から考えて、公務員の平均的な年収より高いと推測できます。
男女比
外交官のみの人数に関しては、はっきりとした公的データはありません。そのためここでは外務省の職員数を見てみましょう。
『外務省 外務省における女性の職業選択に資する情報の公表及び特定事業主行動計画に基づく取組の実施状況』を参照してみましょう。このデータによると、令和3年時点での外務省全体の女性在職者は1951人となっています。これは割合にすると32.6%とやや低い人数になっています。また、女性の本省課室長相当職は8.9%と管理職の数も課題となっています。
こういった状況にあって、外務省は女性総合職の採用を増やしています。2021年度は32人中18人、2020年度は30人中16人と、近年の2年間は女性の採用数の方が若干多くなっています。
求人・就職情報・需要
外交官の需要は、今後より高まっていくと考えられています。
現在、貧困や差別、南北格差、難民問題、環境問題、経済停滞、先進国の少子高齢化問題などの諸問題が、世界規模で顕在化してきています。日本ももちろん無関係ではなく、国際社会の場での協力が求められています。このような中で、他国や国際機関とやりとりをする外交官への期待も高まっています。日本が国際協力に貢献し、かつ国益を守るために外交官の活躍は重要です。
やりがい・魅力
外交官のシゴトの魅力は、日本の代表として国際社会で活躍できることです。
外交官は海外で日本の代表として交渉や対話をします。海外や国際機関との利害調整、問題解決は時に困難を伴いますが、自身の力で国益に寄与した時は大きな充実感が得られるでしょう。
また、大使館などの外交官が所属する在外公館がある国の三分の二は発展途上国です。そのため発展途上国の成長にも貢献できるシゴトです。
つらいこと・大変なこと
外交官のシゴトで大変なことは、環境が変わりやすいことです。
外交官は外務省本省か、海外にある在外公館、もしくは国際機関に派遣されて働くことが一般的です。そのため人の入れ替わりが多く、組織人員の構成も変わりやすいです。海外勤務、特に発展途上国での勤務となれば、日本とは異なる生活習慣や現地の衛生環境に慣れることも一苦労となります。
今回の記事はこれで終わりです。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。また次回の記事でお会いしましょう。
参考にしたサイト
『キャリアガーデン』
https://careergarden.jp/gaikoukan/
『職業情報提供サイト(日本版O-NET)』
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/150
『スタディサプリ進路』
https://shingakunet.com/bunnya/w0005/x0084/
『人事院 国家公務員給与の実態~令和3年国歌公務員給与実態調査の結果概要』
https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/index_pdf/koumu_jittai.pdf
『外務省 キッズ外務省』
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/q_a/hito.html
『外務省』