臨床心理士について皆さんはどれくらい知っていますか?
具体的にはどのような仕事をしているのか、臨床心理士になるにはどうすればよいのかなど、詳しくまとめていきます。
臨床心理士とは
臨床心理士は、心の問題に取り組む心理専門職の証となる資格です。
日本臨床心理士資格認定協会によると、臨床心理士とは「臨床心理学に基づく知識や技術を用いて、人間のこころの問題にアプローチするこころの専門家」です。臨床は「現場」や「実践的な」という意味を持ち、臨床心理士は患者に直接的な診療を行います。
それでは、具体的な仕事内容を次で見ていきましょう。
心理カウンセラーと臨床心理士の違い
心の問題に取り組むシゴトのメジャーなものに「心理カウンセラー」があります。
どちらも悩みを抱えるクライアントに対してカウンセリングを行うという点に違いはありません。病院やクリニックなどの医療機関、学校、企業などで働くことができるという点も共通しています。しかし、臨床心理士が資格を取得している人しか名乗れないのに対して、心理カウンセラーには特別な定義がありません。
定義がない分、心理カウンセラーという概念はとても広いものになります。臨床心理士や保健室の先生、独学で学び心理カウンセリングをする人もすべて心理カウンセラーといえます。
臨床心理士の仕事内容
「臨床心理士資格審査規程」第11条によると臨床心理士に求められる固有の専門業務は4つに分けられます。
臨床心理査定
「診断」ではなく「査定」と表記しています。「診断」は、診断する人の立場から対象の特徴を評価しますが、「査定」は、その査定される人の立場から、その人の特徴を評価する専門行為に主眼がおかれています。つまり臨床心理査定とは、種々の心理テストや観察面接を通じて、個々人の独自性、個別性の固有な特徴や問題点の所在を明らかにすることを意味します。また同時に、心の問題で悩む人々をどのような方法で援助するのが望ましいか明らかにしようとします。加えて、他の専門家とも検討を行う専門行為といえます。
臨床心理面接
臨床心理面接は、臨床心理士とクライアントとの人間関係が構築される過程で“共感”“納得”“理解”“再生”といった心情が生まれる貴重な空間です。そして来談する人の特徴に応じて、さまざまな臨床心理学的技法(精神分析、夢分析、遊戯療法、クライエント中心療法、集団心理療法、行動療法、箱庭療法、臨床動作法、家族療法、芸術療法、認知療法、ゲシュタルト療法、イメージ療法など)を用いて、クライアントの心の支援に資する臨床心理士のもっとも中心的な専門行為です。
臨床心理的地域援助
専門的に特定の個人を対象とするだけでなく、地域住民や学校、職場に所属する人々の心の健康や地域住民の被害の支援活動を行うことも臨床心理士の専門性を活かした重要な専門行為です。これらのコンサルテーション活動は、個人のプライバシーを十二分に守りながらも、コミュニティ全体を考慮した心の情報整理や環境調整を行う活動ともいえます。また、一般的な生活環境の健全な発展のために、心理的情報を提供したり提言する活動も“地域援助”の業務に含まれます。
調査・研究
心の問題への援助を行っていくうえで、技術的な手法や知識を確実なものにするために、基礎となる臨床心理的調査や研究活動を実施します。心理臨床の個別性に由来するさまざまな問題や課題に関する特化した研究技法ともいわれる“事例研究”の体験学習は、臨床心理士に求められる大切な専門業務と直結しています。高度専門職業人として、自らの専門資質の維持・発展に資するきわめて重要な自己研鑽に関する専門業務といえましょう。
以上4つの業務を基本に、日々カウンセリングや診察を行っています。
臨床心理士の雇用形態
実は臨床心理士という仕事は正社員の募集が少ないです。非常勤で働く人が多いことが臨床心理士というシゴトの特徴となっています。正社員でなくても、専門性の強い仕事のため責任のある仕事を任されます。
心理カウンセラーの働き方は「常勤」と「非常勤」に分かれます。
常勤は正社員、正職員というカタチで医療機関などに勤務する形態です。その他一般の会社員と同じシステムで、1週間フルタイムで働きます。それに対し非常勤は週に2,3回程度の勤務をする形態であり、パートタイムやアルバイトと同じような働き方です。非常勤が正社員と同じかそれ以上に稼ぐには、複数の現場を掛け持ちする必要があります。
以下は日本臨床心理士会の第7回「臨床心理士の同行調査」による臨床心理士の就業領域の割合です。
医療・保健現場に勤める人が41.9%、続いて教育系現場が36.0%でした。大学・研究所が25.3%、福祉が18.7%です。その他に産業組織・労働系が8.3%、個人の心理相談所が8.2%、その他が3.8%となっています。
全体のパーセンテージは142.2%であり、掛け持ちをしている非常勤が多いことがわかります。
なり方
臨床心理士になるには試験を受けて合格する必要があります。試験合格後は案内に従って臨床心理士登録をします。
試験受験
↓
試験合格
↓
臨床心理士登録
という流れで臨床心理士になります。
受験資格
主な受験資格は以下です。
- 指定大学院(1種・2種)を修了し、所定の条件を充足している者
- 臨床心理士養成に関する専門職大学院を修了した者
- 諸外国で指定大学院と同等以上の教育歴があり、修了後の日本国内における心理臨床経験2年以上を有する者
- 医師免許取得者で、取得後、心理臨床経験2年以上を有する者など
この他にもありますが、主な受験資格は以上です。1つでも条件を満たしていれば試験を受けることができます。
要するに指定の大学院を修了した者と2年間の実務経験を有する者です。指定の大学院というのはごく限られた所ではありませんので安心してください。2020年では157の大学院が指定されています
試験内容
試験は一次試験と二次試験があります。
一次試験
①多肢選択式問題
4つの専門業務について、また臨床心理士としての基本的な姿勢に関わるような基本問題が100問出題されます。
②論述式試験
「心理臨床に関する1題のテーマ」について1000~1200字で回答します。簡潔に論理的に文章をまとめるのがポイントです。
これらの試験を1日にまとめて行います。そして一次試験に合格した者のみが二次試験の受験資格を得ることができます。
二次試験
二次試験は口頭試験(面接)です。臨床心理士にふさわしい知識やスキル、人格を兼ね備えた人材か、最後の確認がなされます。
試験の合格率は例年60〜65%であり、比較的倍率は低いといえます。しかし受験資格のハードルが高く、しっかり大学院で学び、対策した人が多いので、やはり難易度は高いでしょう。
就職活動時期について
臨床心理士を目指す大学院生は資格取得前から就職活動を始めます。資格を取得するという前提の元で病院なども採用をします。そのため時期としては大学院2年の夏頃から始める人が多いです。
また試験に不合格した時のために一般企業の採用試験を受ける人も多くいます。
年収
日本臨床心理士資格認定協会の調査によると、ほとんどの臨床心理士の年収は300〜400万円であり、平均年収は約350万円です。日本の民間企業の平均年収は436万1円であるため、比較的収入は低いです。
正社員としての求人・採用が少なく、非常勤で働く人が多いのが主な原因でしょう。
男女比
女性75%、男性25%という割合です。
正社員の求人が少なく、男性が家庭を養っていくには給与面で不安があることが理由の一つとして考えられそうです。また、カウンセリングには男性よりも女性の方が向いているため女性のほうが多くなったというのも自然な考察です。
学歴
臨床心理士になるために必ずしも学歴は必要ではありません。しかし、毎年試験の受験者はほとんどが大学院を修了した者です。大学院では心理学や心理士について大学よりも深く学ぶことができ、臨床心理士を目指すうえで大きなプラスになるでしょう。あなたが資格取得を目指す学生ならば、受験資格を得るために、指定されている大学院を調べることをお勧めします。
社会人が臨床心理士を目指す場合も学校に通う必要があります。大学院ではなくても、働きながら夜に通うことができるスクールも存在しているので、安心してください。
臨床心理士の1日
・病院勤務の場合
09:00 出社、資料読み込み
10:00 カウンセリング1
11:30 資料作成
12:00 休憩、昼食
13:00 カウンセリング2
15:00 カウンセリング3
17:00 カルテ作成や患者の資料読みこみ
18:30 退社
病院勤務だと、朝は9時に出社するところが多いです。9時前に出社して、患者の資料を読んでカウンセリングに備えます。カウンセリング後にはカルテなど、資料をまとめます。カウンセリングの予約状況によって昼ごはんの時間は早くなったり遅くなったりします。病院には営業時間があるので、病院で働く臨床心理士は定時で帰宅できる日がほとんどです。
シゴトニンTVの描く未来図
臨床心理士は民間資格です。1988年に生まれ、その権威を保ってきましたが、2017年に公認心理師法が定められ、同時に公認心理師という職業が生まれました。臨床心理士と公認心理師の最も大きな違いは国家資格であることです。業務内容は重なるところが非常に多く、両者の明確な違いはありません。
この先臨床心理士になる人は減っていき、公認心理士を目指す人が増えていくでしょう。仕事内容は同じでも、民間資格と国家資格はイメージが変わってきます。国が臨床心理士の資格保有者全員に公認心理士資格を与えることで、臨床心理士というシゴト、言葉が無くなって公認心理士に統一されるということがあるかもしれませんね。
やりがい・魅力
・患者さんやクライアントが回復する様子を見るのがやりがいです。感謝の言葉や手紙をもらうたびにモチベーションが上がります。
・広い意味で人助けのシゴトのため、誇りややりがいを感じやすいです。
つらいこと・大変なこと
・いじめ、虐待などつらい話を聞き続けることや、クライアントが怒りや憎しみの感情をぶつけてきたり、つらいことは多いです。
・非常勤で安定して収入を得るために複数の働き先を探すことが大変です。
向いている人
コミュニケーション能力が高い人や精神力が強い人に向いています。患者と話しやわらかい空気をつくり、自身が精神のバランスを崩さず働き続ける必要があるからです。
その他患者を見る観察力や冷静さ、とっさのことに柔軟さが求められるシゴトです。
参考にしたサイト
・キャリアガーデン
・スタディサプリ
https://shingakunet.com/bunnya/
・日本心理士資格認定協会
http://fjcbcp.or.jp/rinshou/gyoumu/
・ベネッセマナビジョン
https://manabi.benesse.ne.jp/shokugaku/job/list/163/content/index.html