消防士とは
消防士は、管轄する地域の住民を、火災や事故、災害などから守る地方公務員です。実は消防士の正式名称は「消防吏員(しょうぼうりいん)」といいます。消防吏員は階級制となっていて、一番下の階級を「消防士」と呼んでいます。階級は全部で10あり、最高級が東京消防庁の消防長である「消防総監」、次が東京消防庁の次官や政令指定都市の消防長である「消防司監」、以下「消防正監」「消防監」…と続きます。
Wikipediaには「消防に所属する職員のうち火災が発生した際に火災現場へ赴く者である。 日本の消防に所属する消防吏員の階級の一つ。」と書かれています。
なお、この記事内ではわかりやすくするために消防吏員のことを「消防士」と表記します。
早速消防士の仕事内容について見ていきましょう。
消防士の仕事内容
消防士の業務内容は、大きく「消火」「救助」「救急」「防災」「予防」の5種類に分けることができます。それぞれ解説します。
消火活動
我々が最も想像しやすい消防士の業務がこの消火活動ではないでしょうか。火災の通報を受けて現場にいち早く出動し、火災現場からの出火をくい止めると同時に、現場や近隣住民の人命救助を行います。その際火が広がっていくことを最小限に抑えるため、出火状況や風向きなどを素早く把握し行動に移します。
消火活動では危険をともなう状況が続くため、近隣住民を安全な場所へ誘導したり、消火の妨げとなる活動現場の障害物を取り除いたりすることも重要な任務です。
日々起こる火災の件数はそう多くはありませんが、消防士たちは日頃から訓練を重ね、すぐ火災現場に駆けつけられるよう常に出動の準備をしています。
救助活動
火災現場で逃げ遅れた人や、交通事故で自力では車から脱出できなくなった人、地震や土砂災害で建物の下敷きになった人などを助け出すのが救助活動です。火災現場では逃げ遅れた人を救助し、交通事故の現場では車にはさまれたり閉じ込められたりした人を助け出します。
消防署の中にある救助隊や特別救助隊に所属し、専門の訓練を受けた救助隊員が担当します。特別救助隊からさらに選抜されたメンバーで構成されるのが大規模災害などに対応する高度救助隊、特別高度救助隊です。
救急活動
消防の仕事の中で最も頻度が高いのが救急活動です。急病人やけが人が発生した際、119番の通報を受けて現場に急行し、応急処置を行って病院へ搬送します。救急活動を担当するのは講習を受けて専門の知識・技術を習得した救急隊員です。
救急車には3人が乗車し、うち一人は「救急救命士」の国家資格をもつチームで動くのが一般的です。現場における応急手当は高度な処置と的確な判断が必要となるため、特別な資格をもつ救急救命士が同乗し、処置にあたります。
防災活動
火災が起きないように、地域の防災計画の立案や、火災予防の意識を高める啓発活動、会社や学校、地域で行う防災訓練の指導を行うのも消防士のシゴトです。災害を未然に防ぎ、被害を最小限にくい止めるための重要な任務です。その他、火災や地震のレベルを想定したり、地域の地形に基づく被災パターンを想定したり、地域の実状にあった訓練を行います。
予防活動
建物の防火上の安全性や消防用設備などの設置について、現場の実状を厳格に審査・検査し、その結果に基づく指導を行う業務です。
建物ができた後の用途変更にともなう際にも同様の審査・検査・指導を実施し、建築物の防火と安全確保に努めます。
工事中や建物の完成時には、実際に建築現場に出向き、施工状態を確認したり、防火に対する基準を満たしているかなどを厳しく検査したりします。
このように消防士は消火活動のみならず救急や救助活動、防災など、人々の命と安全を守る重要なシゴトをしています。
消防署の組織
消防署は事務職員と、3つの「隊」で構成されています。3つの隊とは「消火隊」「救急隊」「救助隊」です。それぞれ解説します。
消火隊について
火災現場における消火活動や人命救助を行う部隊です。別名ポンプ隊ともいい、一般的な消防士のイメージはこの消火隊であることが多いのではないでしょうか。
消火隊は火災現場の他に、救助現場で活動する事も多いです。火災が発生していなくても、交通事故などの現場に同行し、「救助隊員」などのサポートをします。
また、病人やけが人の多い現場で人手が足りない時には、消火隊の消防士が救急車の運転をすることもあれば、消防車に乗って救急車と一緒に出動もします。この活動は「PA連携」と呼ばれています。
PA連携の際には、消防士の中でも救急隊や救急救命士の資格を持つ隊員が先に消防車で現場に駆け付け、現場の状況整理や、応急的な処置などを行う事もあります。
消火隊の制服は自治体によって異なりますが、紺色や青色の作業服に自治体名の入っているデザインが多いです。消火隊は火災現場では専用の防火服を着用し、自身の安全を確保します。
救急隊について
救急隊は、119番通報など、救急車の出場要請があると救急車に乗って現場へ駆けつけ、現場での患者への処置や必要な場合には医療機関への搬送を行います。
また、救急隊員の中には、国家資格である「救急救命士」の資格を持つ者も多いです。救命救急士資格を持つ消防士には、医師の指導の下の気道確保などの特定の医療行為や投薬治療が、法律で認められています。
日本国内の消防署では、救急車1台につき1人以上の救急救命士を持つ救急隊員を同乗させる事を目標とし、研修や訓練に力を入れています。
救急隊員の制服はグレーで統一された全国共通デザインで、襟が取り外し可能となっています。
救助隊について
消防士の中でも、人命救助に特化した任務を行うのが救助隊です。救助隊は「レスキュー隊」とも呼ばれ、事故現場や災害現場の救助活動に適した特殊車両で駆け付け、救助活動を行います。山岳車や水難救助車、クレーン車などたくさんの種類の特殊車両があります。
興味のある方はこちらで確認してみてください。
(東京消防庁https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/)
救助隊は、火災や労働災害、事故など人為的な事故現場から、地震や洪水、台風などの自然災害の現場まで救助活動に向かいます。全国の救助隊は基本的には管轄内の現場を担当していますが、大規模な自然災害には、災害現場がある自治体だけでなく、近隣・全国の自治体と連携を図ることがあります。
そのため、救助隊員は全国各地の災害現場に派遣される事も多い職種です。近年では熊本の地震や、毎年の豪雨災害の際に、全国から多くの救助隊員が派遣され、救助活動が行われました。
救助隊員の制服は、基本的にオレンジ色の作業服です。暗い現場でも活動がしやすく、遠いところからも見分けやすい目立つ色として、オレンジが選ばれています。また、救助隊員の制服は、救助活動に耐えられる様に、色々な部分が補強されています。
また、消防署にはデスクワークを行う事務員も存在します。書類作成や給与計算、経理などの事務作業を行う大事な職員です。
続いて、消防士のなり方を見ていきましょう。
消防士のなり方
消防士になるためには、各自治体が実施する「消防官採用試験」に合格する必要があります。試験について説明します。
採用試験について
消防士は地方公務員であるため、採用試験は各自治体が行います。自治体によって試験日程や試験内容などには違いがあるため、自分が受験したいと考える試験の情報については、事前によく確認しておく必要があります。
試験はほとんどの地域が「Ⅰ類型」「Ⅱ類型」「Ⅲ類型」の3区分に分かれています。
型によって難易度と受験資格が異なっています。
Ⅰ類…大卒者向け。22歳以上30歳未満
Ⅱ類…短大卒向け。20歳以上30歳未満
Ⅲ類…高卒者向け。18歳以上30歳未
年齢の条件さえ満たせば、どの試験も受けることができます。最終学歴が中卒であってもⅠ類を受験することも不可能ではありません。試験合格者を対象とした採用も、自治体ごとに行われます。試験の倍率は各自治体によっても異なりますが、ほとんどが約10倍です。狭き門となっています。
消防士は学歴によって有利・不利がある仕事ではありませんが、区分によって初任給、昇進・昇給のスピードや幅などに違いが出てくるため、まずは自分が消防士としてどの枠で働くのか、よく考えることが大切です。
消防学校について
試験後、合格者たちは4月から「消防学校」に半年間通います。消防学校は全寮制で、各都道府県に必ず一校、それらと別に一部政令指定都市にあります。
学校とありますが、中学校や高校とは異なる消防施設で、通っている間も消防士として給料が出ます。消防学校では消防の基本的な知識や機材の扱い方など、消防士に必要な知識や技能を学ぶことになります。消防学校の期間は研修のようなもので、卒業後は各消防署に配属され、現場に出て消防活動を行います。
以上を踏まえ、消防士になる流れは以下です。
高校卒業 高校卒業 高校卒業
↓ ↓ ↓
Ⅲ類採用試験 短大 大学
↓ ↓ ↓
消防学校(研修期間) Ⅱ類採用試験 Ⅰ類採用試験
↓ ↓ ↓
消防士 消防学校 消防学校
↓ ↓
消防士 消防士
消防士の雇用形態・勤務先
消防士は地方公務員であり、各自治体に雇われていることになります。アルバイトや派遣社員は存在せず、全ての消防士は正社員です。
消防学校在籍中に配属が決められ、卒業後はすぐに働き始めます。配属希望調査などは行われますが、最終的な配属は人事の一存で決められます。
数年に一度自治体内の別の消防施設に異動するケースはありますが、別の自治体の管轄への異動は基本的にはありません。
勤務時間・休日
消防士の勤務形態は特殊なものです。
ほとんどの消防署が3部制と呼ばれる当番・非番・休日を繰り返すシステムを採用しています。
当番とは24時間勤務、非番は24時間勤務が終わった後を意味します。つまり、実質的に24時間働いて2日休みの繰り返しということです。なお事務職はその他一般のサラリーマン同様、8時に出社して17時に退社します。
当番の消防士たちは、出動中以外は主に訓練をしています。昼休憩は原則としてお弁当を持っていくことになっています。外食は緊急出動に備えられないため禁止です。
夕方以降は入浴を済まし仮眠を取ります。このときも緊急出動に備えるため制服のままです。
1度の勤務が24時間と非常にハードなため、非番休日と休みを続けるシステムになっています。中には交代制と呼ばれる当番と非番を繰り返すシステムを採用している消防署もあります。自分の希望する自治体の消防署についてよく調べておきましょう。
年収
総務省によって行われる「地方公務員給与実態調査の概要1」によると2018年度の消防士の平均年収は約622万円です。民間企業の平均年収の436万円2と比べると非常に高い水準となっています。
これは地方公務員のなかでも高水準です。理由として、消防士には通常の給与に上乗せされる手当が多いことが挙げられます。具体的には「危険作業手当」「不快作業手当」「重勤務作業手当」「非常災害業務手当」「消防業務手当」「救急出動手当」などがあり、これらの支給額は1回当たり数百円程度ですが、毎月の出動手当だけで月々平均10万円近くになります。
男女比
消防白書によると男性消防官の割合が95%を超えています。近年は女性の採用割合が増えているようですが、まだまだほんの一部に過ぎません。女性の消防設備士が活躍している前例が少なく、自身が働く姿をイメージしづらいことが主な理由として考えられます。
学歴・資格
消防士になるためには特別な学歴も資格も必要ありません。しかし、消防士になった後、パフォーマンスを上げるために特に重要なを2つだけ紹介します。「大型自動車免許」と「救急救命士」です。
消防署はポンプ車やタンク車、救助工作車、梯子(はしご)車など、中型から大型車両がたくさん配備されています。それらを運転するためには運転免許証が必要です。大型まで免許を取得しておくと、採用試験で有利になるだけでなく、早い段階で「機関員」を任命させる可能性も高くなります。機関員とは、救急車や救急自動車を運転する人のことです。
「救急救命士」は救急車内や現場で、重度の傷病者に救急救命処置を行うことができる資格で、医師の指示の下、口の中にチューブを入れ気道を確保したり、腕や足に点滴をとり薬を使うこともできます。救急車で活躍する以外にも自衛隊、海上保安庁、警察なども活躍しています。国家資格であり取得難易度の高い資格ですが、その分需要があり現場での価値も高いのでお勧めの資格です。
やりがい・魅力
消火活動や救急・救助活動は直接的に人々の役に立っていると実感できるため、達成感やモチベーションにつながります。消防士は直接的に人助けができる数少ないシゴトのひとつです。
また給与が高いことも大きな魅力のひとつです。危険なシゴトもある分、他の地方公務員と比べても高い年収となっています。
大変なこと・つらいこと
現場で働く消防士にとって最も大変なことのひとつは、体力面の厳しさです。
現場では重さ10キロ以上の酸素呼吸器やヘルメット、防火服を身にまといますし、高所など危険な場所で消火や救助活動を行うこともあります。
また出動時だけでなく、消防士としての技術力の向上や身体づくりのために行う普段の訓練・トレーニングでも、相当な体力を消耗します。
また一度の勤務が24時間なので、不規則な生活リズムになりやすいです。実際不規則な生活から睡眠不足に悩まされる消防士は多いです。
最後に
以上で消防士の記事は終了です。
消防士は地方公務員のため、各自治体によって採用試験の内容や日程、勤務形態が異なります。消防士を目指す方はしっかりと調べて対策・準備をしてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考にしたサイト
・公務員総研
・スタディサプリ
・東京消防庁
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/
- https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/kyuuyo/kyuuyo_jc.html
- 国税庁 令和元年 民間給与実態統計調査を参照https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2019/pdf/001.pdf