今回紹介するシゴトは裁判官です。
ぜひ最後までご覧ください。
裁判官の仕事内容
「裁判官」とは最高裁判所長官、最高裁判所判事、高等裁判所長官、判事、判事補、簡易裁判所判事という役職の総称です。
世間一般では裁判官と呼ばれますが、正式には判事といいます。
裁判官は全国各地の裁判所において裁判を担当し、口頭弁論や証拠調べを経て判決・決定を言い渡します。民事裁判でも、刑事裁判でも、原告や検察官(裁判を起こした人)、被告や被告人(裁判に訴えられた人)の話をよく聞いて、法律に従って中立公正な立場から判断をします。裁判官は裁判所に提出された書類を読んだり、証拠を見たり、証人の話を聞いたりしながら、裁判を起こしてきた人の言い分が認められるかどうかを慎重に判断し、最後に「判決」を下します。判決とは被告人が有罪か無罪か、有罪の場合には刑罰はどのようなものか、執行猶予はあるのかといった裁定のことです。例えば有罪の場合は、「被告人を懲役○年△月に処する。この裁判確定の日から3年間その刑の全部の執行を猶予する。」というような判決になります。
判事・判事補
裁判官には判事・判事補という職位があり、ほとんどの裁判官はこのどちらかの役職におさまっています。判事のほうが上で判事補が下です。判事は判事補を10年経験した者から選ばれ、判事補は司法研修を終えた修習生から採用されます。判事補はいわゆる新人裁判官であり、原則として一人で裁判を行う(裁判長になる)ことはできません。
裁判官のなり方
裁判官になるためには「司法試験」に合格し、その後「司法修習」と呼ばれる一年間の研修を受ける必要があります。順に説明していきます。
司法試験には受験資格があり、誰でも受けることができる試験ではありません。法科大学院で2年間または3年間学ぶことで受験資格を得ることができます。大学院に通わない(通えない)場合でも、予備試験に合格することで受験資格を得ることができます。
予備試験は短答式試験(一次)、論述式試験(二次)、口述式試験(最終)に分かれており、一次試験を突破した者のみが二次試験を受けることができ、同様に二次試験を突破しなければ最終試験を受けることができません。この予備試験は年に1回のみ行われ、その合格率は例年約4%です。法科大学院修了者、予備試験合格者ともに受験資格は5年間です。司法試験は1年に1回行われるので、一度資格を持ったら5回まで試験を受けられることになります。
続いて司法試験の内容についてまとめます。
司法試験は5月中旬に4日間の日程で行われます。
例えば2021年の司法試験日程は以下の通りです。
2021/05/12(水) | 選択科目(3時間) | |
公法系科目第1問(2時間) | ||
公法系科目第2問(2時間) | ||
2021/05/13(木) | 民事系科目第1問(2時間) | |
民事系科目第2問(2時間) | ||
論文式試験 | 民事系科目第3問(2時間) | |
2021/05/15(土) | 刑事系科目第1問(2時間) | |
刑事系科目第2問(2時間) | ||
2021/05/16(日) | 短答式試験 | 憲法(50分) |
民法(75分) | ||
刑法(50分) |
司法試験は論文式試験と短答式試験に分かれています。
・論文式試験
公法系科目:憲法、行政法
民事系科目:民法、商法、民事訴訟法
刑事系科目:刑法、刑事訴訟法
選択科目:知的財産法、労働法、租税法、倒産法、経済法、国際関連法、環境法から1つ
・短答式試験
憲法、民法、刑法
論文試験は必須科目が「法律基本7科目」とよばれる憲法・行政法・民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法であり、公法系・民事系・刑事系に分けられます。選択科目は知的財産法、労働法、租税法、倒産法、経済法、国際関連法、環境法から1つ選びます。短答式試験は憲法、民法、刑法の3科目です。司法試験の合格率は例年25%ほどです。
試験合格後は、「司法修習」を受けます。
司法修習とは、裁判所法によって定められた法曹教育制度であり、司法試験合格者は1年間かけて法律実務に関する幅広い知識と実技を学びます。司法修習の最後には試験(司法修習生考試)があり、それに合格することで判事補・検事・弁護士いずれかとなる資格が与えられます。
司法修習生は裁判官・検察官・弁護士いずれの道に進む者に対しても同じ過程で行われます。修習生は例外なく47都道府県にある裁判所、もしくは東京都立川・北海道旭川・釧路支部のいずれかに配属されます。実務実習の配属先は裁判所によって割り振られ、本人は希望は出せても、決定することはできません。カリキュラムは10か月の実務修習と司法研修所における2カ月の集合修習に分かれています(それぞれの内容については後述します)。
弁護士の場合は司法修習考査に合格後、地域の弁護士会に登録することで弁護士として働くことができるようになります。
実務修習と集合修習
司法修習は司法試験合格後、修習生登録した場合に、以下の5段階によって行われます。
①導入修習
②分野別実務修習
③選択型実務修習
④集合修習
⑤司法修習生考試(いわゆる二回試験)
このうち分野別実務修習と選択型実務修習を合わせて実務修習といいます。
・実務修習
②の分野別実務実習は修習の大部分を占めるものです。導入修習後の1月から4月にかけて4クールにかけて行われます。各クールではは「民事裁判」「刑事裁判」「弁護」「検察」の修習が実施され、どの時期にどの配属になるかはクラスによって異なります。
③の選択型実務修習は、
ⅰ全国プログラム
ⅱ個別プログラム
ⅲ自己開拓プログラム
ⅳホームグラウンド修習
に分かれています。修習生は選択型実務修習が行われる2カ月間でこの4つのプログラムを自由に組み合わせます。以下4つのプログラムについて記述します。
ⅰ全国プログラム
全国の修習生を対象に、全国各地で開催します。企業内の修習や地方の法テラスなど行われる2週間のプログラムです。ほとんどのプログラムの募集人数に限りがあるので、抽選が行われます・
ⅱ個別プログラム
各配属地の裁判所・検察・弁護士会が設置しているプログラムです。分野別修習の補完・発展を目的としています。分野別実務修習の延長というイメージです。
ⅲ自己開拓プログラム
修習生自身が主体的に企業や官庁に掛け合って修習先を見つけるプログラムです。自分の行きたいところに行くことができるのがメリットです。
ⅳホームグラウンド修習
弁護修習で配属された弁護士事務所で弁護修習の続きをするプログラムです。ほとんどの修習生がこのプログラムを選択修習に組み込みます。
半年間にわたる実務実習が終わると集合修習に移ります。
・集合修習
集合修習の内容は以下の3つです。1カ月半かけて行います。
⑴即日起案
⑵模擬裁判
⑶講義
⑴即日起案
起案とは事務文書や条文などの案や文を考えて作ることです。
10日間で民事裁判・刑事裁判・検察・民事弁・刑事弁の5科目を2回ずつ起案します。そしてそれぞれに対する解説を講義・講評として行います。
⑵模擬裁判
実際の事件を題材にした模擬裁判を行います。
弁護人、検察官、裁判官、証人などの役が割り振られ、裁判の一連の流れをロールプレイングで行います。
⑶講義
実務にむけた講義が行われたり、ゼミ形式のグループワークを行うこともあります。集合修習では課題が出ることもあり、休日修習生は課題をやったり2回試験の勉強したりして過ごします。
司法修習生考査
司法修習において実務修習、集合修習を終えた後、最後の試練となるのが2回試験と呼ばれる司法修習生考査です。
この試験の科目は民事裁判・刑事裁判・検察・民事弁護・刑事弁護の5科目で1日1科目、5日間かけて行われます。内容は科目ごとに100ページ程の事件記録簿が配られ、事実認定や書類作成を行うというものです。7時間半という時間の試験が5日間続くので体調管理や体力の維持が求められます。
二回試験が行われるのは年に1回であり、不合格だった場合法曹になるのは1年後になってしまいます。そのため司法修習生たちは必死に準備します。例年合格率は90%を超えています。
裁判官の年収
裁判官の給料は「裁判官の報酬等に関する法律」によって定められています。
最高裁判所長官、最高裁判所判事、高等裁判所長官、判事、判事補、簡易裁判所判事それぞれで大きく異なります。
任官したばかりの判事補の初任給は月額22万9900円です。俸給のほかに各種の手当やボーナスが支給されます。そこからキャリアアップをして、判事、裁判長となっていくことで年収が上がっていきます。
任官後20年間は平等に給料が上がって行くシステムです。初任給は民間の大企業と同じくらいですが、入社後10年の月給約45万円で追い越します。
主な役職者の月額報酬は、最高裁判所長官が約200万円で、これは公務員のなかで最も高い給与水準です。最高裁判所判事が146万6000円、東京高等裁判所長官が140万6000円、その他の高等裁判所長官が130万2000円などと決められています。これに加えて各種手当やボーナスが支給されます。平均年収は1000万円以上です。
男女比
法曹のそれぞれの男女比は以下の通りです(全て2019年時点)。
・裁判官全体(簡易判事を除く)の女性比率は26.7%。
・検察官の女性比率は25.0%。
・弁護士の女性割合は18.8%。
裁判官、検察官はそれぞれ女性の比率が25%付近であり、弁護士は20%を切っています。
2003年に政府は社会のあらゆる分野において指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%にするという目標を掲げましたが、達成できませんでした。毎年女性の採用を増やしているので、いずれは30%は超え、50%に近づいていくでしょう。
学歴
司法試験を受けるためには法科大学院で2年または3年学ぶことが必要です。法科大学院に入るためには大学を卒業しなければならないため、学歴は必須といえます。法科大学院に通わない場合でも、予備試験に合格すればその後5年間は受験資格を得ることができますが、予備試験の合格率は例年約4%です。
独学でなれるのか
不可能ではないが、かなり難しいです。司法試験自体の難易度の高さもありますが、主な理由は以下です。
①試験範囲に対応したテキストがない
②論文試験に対応できない
①に関して、主なテキストは基本書と呼ばれる法学者の書いた専門書があるのですが、基本書は司法試験向けに書かれたものではなく著者の研究成果をまとめたものです。そのため必ずしも基本書に書かれていることが試験問題になるわけではないのです。どういった問題が出題されるかは過去問から分析するしかありませんが、1人では非常に手間と時間がかかります。
②論文問題は、自身で採点を行うのが最も難しい科目の一つです。中には模範解答の中から重要とされる要素を自力で発見できる可能性もあるかもしれませんが、多くの場合は作成した論文試験に添削を受け、知識面での間違い/論理構成上の問題点/司法特有の形式への対応不足など自身の足りなかった能力値を丁寧に埋めていくことで成し遂げられます。
裁判官の勤務地
最高裁判所は東京千代田区、その下の高等裁判所は札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・高松・福岡の8か所に置かれています。そして高等裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所が全国に約500箇所あります。裁判官はこのいずれかに配属されます。固定の場所で働き続けるケースは少なく、3年ほどで転勤になります。全国を転々とするのも珍しいことではありません。結婚や出産、親の介護などのっぴきならない理由があれば転勤を断ることができるケースもあるようですが、ほとんどの場合は転勤を受け入れます。そしてこの転勤は定年まで続きます。
裁判官の転勤が多い理由として、「同じ土地に長く務めることで地域との交流や馴染みが増えることで、裁判官の中立性が失われる可能性を排除するため」というのが挙げられます。転勤を繰り返し、その都度新しい土地で働くことは大変ですが、人を裁くというその業務内容上仕方のないことなのです。
スケジュール例
・裁判がある日
08:30 出勤
09:00 資料読み込み
10:00 公判一件目
11:30 公判二件目
12:30 昼休憩、ご飯
14:00 公判三件目
15:00 判決文作成
18:00 帰宅
朝出勤したらコーヒーを飲んだり新聞に目を通すなど、ゆったり過ごします。裁判には資料をしっかり読み込んだ上で臨みます。裁判が1日に何件もある日は昼食を取れない日もあります。裁判後にはその事件に関する事実、理由、などを書いた判決文を作成します。特に仕事がたまっていたり立てこんでいなければ18時頃に帰宅できます。
・裁判がない日
09:00 出社
09:30 資料の読み込み
12:00 昼食
13:00 資料の読み込み、翌日の裁判の準備
18:00 帰宅
裁判がない日はほとんど資料の読み込みや翌日の裁判の準備を行っています。検察の人は一回の後半に100ページを超える資料を用意し、実際の公判の場では、それらの資料を読んだ前提で公判が始まるため、事前の読み込みは必ずしておく必要があります。
やりがい・魅力
・裁判官はかなりの高給なので、仕事をするモチベーションが落ちることはあまりありません。
・仕事に公益性があり、社会的に重要な役割を果たしていることに誇りをもつことができます。平等で中立性を持ち、論理的な思考が求められます。
つらいこと・大変な事
・判決を下すということの責任の重さがプレッシャーになります。
・転勤が多いのは大変なことの一つです。
・心が痛む事件の裁判を担当するのもつらいです。
参考にしたサイト
・スタディサプリ
https://shingakunet.com/bunnya/w0001/x0019/shikaku/
・キャリアガーデン
・AGAROOT
https://agaroot.jp/shiho/column/legal-training-syugo/
・職業情報提供サイト(日本版O-NET)
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/131
・スタディサプリ進路
https://shingakunet.com/bunnya/w0031/x0401/sigotonaiyo/
・13歳のハローワーク
https://www.13hw.com/jobcontent/05_05_12.html