はじめに
働くとはなんなのか。
あまりにも沢山書くことがあるし、本来であれば一つの答えがないものにあえて答えを出そうとしているのですが、今回は主に、定義、歴史、トレンドの三つの点から今回は答えを出していこうと思います。
定義としては、「働く」から「労働」へと視点を移動させ、「労働」の定義を経済学/社会学の視点と絡めて読み解きます。
歴史としては、労働者という概念が生まれることになった産業革命を考えていくことで、原点から「働く」に迫ります。
最後にトレンドとして、日本を中心にとりあげて、現在の世界が「働く」ということをどのように捉えているのかという点について、働き方をとりまく「副業」「働き方改革」「24時間働きませんか」などの様々なキーワードの中で、今何がホットなのか。
メディアやベストセラーの語り口から、今を読み解きます。
言語の定義としての「働く」ということ
なにごともそうですが、大体の単語には意味が定義されています。
定義を調べる時に役立つのは辞書です。今回は広辞苑1を参照してみましょう。
「働く」とは
はたら・く【働く】
①うごく。②精神が活動する。③精を出して仕事をする。労働をする。④他人のために奔走する。⑤効果を表す。⑥(他動詞的に)する。⑦(文法で)語尾などの語形が変化する。活用する。(広辞苑第七版より)
余りに多くの意味があり過ぎる!日本語の漢字は音読みと訓読みの両両読みをするという性質があるので外国語話者は苦労すると言いますがいくらなんでもこれはしんどいね(笑)
さて、今回取り扱うのは、広辞苑の定義で言えば③の部分である、「労働をする」という部分です。
個人的には「働く」という言葉に込められた意味に精を出すというポイントが含まれているのがとっても興味深いのですが、今回は並んでいるもういっぽうの労働という言葉について調べてみましょう。
今度は「労働」の意味を調べてみましょう。
「労働」とは
ろうどう【労働】
①ほねおりはたらくこと。体力を使用してはたらくこと。②【経】(labo(u)r)人間が自然に働きかけて生活手段や生産手段をつくり出す活動。労働力の具体的発現法。(広辞苑第七版より)
この労働の➀の部分はとってもイメージしやすいと思いますが。②になった途端に頭がぽっかーーーーーんとした方もいるでしょう!2
ということで②をより詳しく見ていきます。
自然に働きかけるということは何となく納得がいくでしょう。我々の身の回りのものは全て自然から生み出されています。一見引きこもりシゴトのしゅうまいも洋服なんかは綿で作られている服を来ていますし、シゴトに使う合成物満載に見えるパソコンやスマホなんかのものも、自然から生まれたもので作っています。
続いての生活手段3という言葉はなんとなく響きからわかるかと思いますが生活に必要なもののことです。例えば穀物、野菜や肉、魚などの食物や、衣服などがこの代表例に当たります。
但し現在の貨幣社会においては、生きていくうえでお金が必要であるということからお金を意味し、生活手段を作り出すということ=生きるためのものを獲得する=お金を得ることを意味します。
そして二個目の「生産手段」とは、木材や鉱石などの原材料(これを専門用語で労働対象と言います)と工場・道具・機械など(これを専門用語で労働手段と言います)の総称です。
この生産手段という単語の説明が広辞苑が少し曖昧なので、何故労働においてこんなにも生産手段が大事なのかということは次の項で説明します!
労働という概念が生まれた時代~産業革命と経済学~
労働者とはなんだ
労働が生活手段を得るもの=生きるために自然に働きかける行為が労働だと言いました。そうであるならば、畑を耕すことも、魚を飼うことも、鳥を撃ってしとめることも労働にあてはまりそうですが、それを行って生きている人たちはなんと現代の意味での「(雇用)労働者」ではないのです。
この差異に「労働」という言葉の真髄があります。
「労働」とは雇用者を前提とする概念であるということです。
雇う側、皆さんの身近な例でいえば居酒屋の店長さんだし、会社だし、自治体かもしれません(公務員は奉仕者であるという前提から労働者ではないというのが日本の憲法では定められていますがそれはさておき)。
雇われる側の人がいて、雇う側の人がいる。
この関係が現代の意味でスタートした時に戻って「労働」を考えてみましょう。
労働者という概念が生まれた時代
左ジョン・ケイの飛び杼:布を織るのに使われた道具、右アークライトの水力紡績機:糸を紡ぐのに使われた機械
下の図は糸を作るDr.stoneでの1シーン。(集英社 Dr.stone10巻 稲垣理一郎 Boichi 158-159P
こちらの画像は同じく糸から布を作るシーン。(集英社 Dr.stone10巻 稲垣理一郎 Boichi 160P)
二つの差に気がつくでしょうか、、、、
そう!扱う人数の差が違うということ!
糸を作る人10人=産業革命前に対して、その10人が作った糸を1人(=産業革命後でいうところ) が織る!
つまりここで、10人と1人の労働時間がイコールでむすばれていくのです。
ちなみに現実の世界では、糸と布の間にバトルが発生して、糸づくりが多くできる機械ができる→糸の生産量が増える→布作り追いつかない!→布たくさん作れる機械作る→布の生産スピードに対して糸足りねぇ→糸もっと増やせる機械作る‥という開発競争リレーが広がっていきました。4
働くヒトというだけであれば当然全ての歴史において存在しましたが、現在の意味でいうところの、特に「雇用労働者」の登場は18世紀に遡ります。
時は技術発展の真っ盛り、技術:主にエネルギーの発展や、生産性を向上させる画期的な機械が続々と生まれていきます。
例えば上の左図にある飛び杼は手作業で行っていた業務の効率を約4倍にした道具と言われており、上右図の水力紡績機は手作業と比べると数十倍も効率的に生産できるようになりました。5
機械によってこれまでの数倍のペースでモノ作りが可能になることで、生産効率は圧倒的に向上し、個人の生み出せる製品量に数十倍もの差が生まれることになります。
そこである人が、この機械を大量に購入して、人を雇ってものを作らせて、その作ったものを売るという仕組みを考えつきました。
これが資本主義の根本のスタートです。
人間の効率を大きく上回るほどの機械は非常に高価になります。
一般の人々ではその機械を手に入れることはできません。
機械を手に入れなければ労働がまともにできない時代の到来です。
人々は働くためには機械を手に入れなければいけない、だが機械はお金持ちの手にある。
この時「生産手段の独占」が行われていました。
人々は自らが「生産手段=機械」を持てないために、「生産手段」=機械を持つ人の下にあつまります。
【「生産手段」=機械】を独占している人=資本家は、集まった人々から機械を扱わせるだけの労働力=時間を、お金を払って買います。
ここに雇用労働者、現代で意味するところの労働者の一番最初の原型が誕生します。
この時代を産業革命=工場製手工業の始まりと表現し、この時代から労働者から現代の意味での労働者が増加してくるのです。
ここで大事だったポイントは三つ
➀生産手段が独占されていたこと
②資本家がお金と対価に労働力=時間を購入していたこと
③労働者が個人で生産手段を持てない/もしくは持っていても機械に叶わない
ということでした。
労働者は今はどうなっている?
ちなみに現代では生産手段は必ずしも資本家=企業に独占されているとはかぎりません。
例えばフリーランスのプログラマーの方は、パソコンとネット環境があれば大概のシゴトはこなせますし、Tiktokerのようにスマホ一台でシゴトをこなす人も多く存在します。
かつてはパソコンも個人で購入することなど到底不可能だったんですが、近年では一人一台持つことも決して難しい事ではなくなってきています。
「2022年」に「日本」で「働く」ということ
コロナによって「働く」ということが大きく変化をしていることは皆さんも感じていることでしょう。リモートワークの増加、医療や介護現場への負担の大きさ、いろんなシゴトに関するニュースを耳にすると思います。
現在、日本で、働く、ということに関してはどのような価値観が広まっているといえるのでしょうか。
日本で流行っている価値観とその背景
ここ数年流行った価値観としては、「フリーランス」「副業」「好きなことを仕事にする」などの言葉が上げられるのではないでしょうか。
これらの背景にあるのは、生産手段の個人化です。
少し上で述べた様に生産手段はこれまで企業が独占していました。個々の生産手段=機械の値段は高く、到底個人で買えるような物ではありませんでした。
例えば携帯電話やパソコンやそれにまつわる通信費、ソフトウェア代は非常に安くなりました。
今でこそ家庭に高速通信回線があるのは当たり前だけど、2000年代の半ばまでは実用に耐える回線を家庭に確保することは非常に難しかったし、パソコンは1990年から2014年にかけて値段が1/4程度にまでなっています。6
そしてパソコンでできる業務も増えました。
数多くのメーカーが参入することでパソコンの性能は上がり、値段は下がり、GoogleやアップルがそれぞれOS7を進化させ、その進化したOS上でソフトウェア*8が数多く展開されて、そのソフトウェアを使って数多くの仕事がパソコン一台で行えます。
いくらパソコンが安くなっても
➀通信費が高かったり
②パソコンを操作するOSが無かったり
③OS上で動かすソフト=アプリが無ければ
なにも仕事ができません。
例えば現在の家のWi-Fiの値段が月々10万円で、パソコンを立ち上げてもSafariもChoromeもfirefoxもedgeも無ければwordもExcelもPowerPointも無ければ仕事ができるでしょうか。
ここでyesと答えられたあなたは相当のgeekであることは間違いありません。(笑)
更に言えばパソコンなんぞ無くてもスマホ1台と使い放題プランさえあれば、それだけで仕事ができます。
「好きなことを仕事にする」
ちなみに「好きなことを仕事にする」と生産手段の個人所有が可能になったことって関係しているの?って質問があるかと思うんですが、答えはYes!めちゃくちゃ関係があります。
そもそも、「好きなことを仕事にする」という言葉が大きく世に広まったタイミングをご存知でしょうか?
こちらの動画、2014年の10/3に公開されたYoutubeのプロモーションビデオです。
テレビでも相当放送されましたし、12文字の短い言葉で伝わるインパクト、Youtuberと呼ばれる人たちの華麗なる成功も相まって相当世界にこの概念が広まりました。
実は、「好きなことを仕事にしよう」という概念自体は昔から数多く存在します。
例えばその顕著な例は音楽家でしょう。
漫画やアニメで多くそういった表現は出てきますね。時には、社会を知らないドラ息子!のような書かれ方もしますが、その一方で憧れをもって書かれた例も数多くあります。
俺は夢を追ってるんだよ!(いいワンシーン頑張って見つけたいできれば1990年代)
但し、これが「好きなことを仕事にする=夢を追う」から「好きなことを仕事にする=好きなことをして現実的にお金を稼ぐ」という認識に変わったのはここからです。
もちろんYoutuber自体はお金を一般的な雇用労働者と同じ水準で稼ぐためには、「夢を追う」と言って差し支えないですが*9、それでも様々な職種での個々人の活躍の場所は増えています。
まとめ
「働く」ことの歴史、資本家と労働者の関係、生産手段の独占、生産手段の個人化といった流れで見る「働く」を取り巻く環境はいかがだったでしょうか。
現在、「働く」を取り巻く環境は非常に複雑です。
今回は「好きなことを仕事にする」という価値観を一例としてとりあげましたが、それ以外にも数多くの価値観が「働く」を取り巻き存在しています。
「成長」「ベンチャー」「転職」「ホワイト企業」「脱ブラック」「多様性」「女性の活躍」様々なキーワード価値観が存在しています。
僕がこの記事で示した回答がほんの一例です。
皆さんなりの「働く」に対する価値観の持ち方はあると思います。
例えば今回の記事の中で、あえて出さなかった一つの方向性が、「働く」ことはお金を稼ぐことであり、そのためには「働く」際に自分の負荷や嫌な思いをできる限り小さくしたいという価値観です。
現在、娯楽は人間の歴史上最も安価に手に入るといっていいでしょう。その場合一番重要になるのは時間の確保です。
刺激を仕事に求める必要がまったくなくなり、家にいても何らかの消費するコンテンツが存在します。
それらのコンテンツを消費するために、より長く、より心地いい時間を確保する必要がある。
そのために仕事は。「働く」ということは自分への負担をなるべく減らし、お金を稼ぐということにあります。
ぜひ、皆さんなりの「働く」の価値観を見つけてみてください。
- ちなみに皆さんは広辞苑を読んだことはありますか?広辞苑は辞書としての知名度では日本トップクラスだと思うんですけどインターネットの発達によって読まれなくなってきている気がどんどんしています。個人的な広辞苑の使い方は、今回みたいに抽象的な単語の意味を調べる時で、特に「働く」みたいな多義的な言語の意味を調べる時にはとっても役立つと思ってます。一個難点があるとすればでかくて重いことです。
- ぽっかーんとするのもそれはそのはず、この意味は学術専門用語だからです。広辞苑には、専門学術用語も一部記載されていて、【経】は経済学の専門用語であることを意味しています。
- この言葉の意味がやや難しいので丁寧に説明しています。生産手段とは、労働対象と労働手段である。と教科書では書かれています。詳しくはもう少し下の章を見てもらえればわかるんですが、かつては個人で活動することは不可能な時代でした、働くためには多くの人は電話やオフィス、道具、機械を持っている会社に所属しなければいけない時代でした。生産手段という言葉は、その時代の経済学で開発された言葉です。もちろん現代でも雇用労働者という時は原則として全ての道具は会社から貸与されたもので行われるために生産手段を資本家からもらうという構造は似通っていますが、個人でも生産手段を手に入れることができるという点でみると生産手段をめぐる環境は当時と現在では大いに異なると言えます。詳しく知りたい方は、マルクス「資本論」、「マンキューの入門経済学」などを読んでみるともう少しわかりやすいかも!
- 一人が一日につむげる糸の生産量が1 一人が一日に織れる布生産量を1とした時に 力織機が作れる布の量100 水力紡績機40 ミュール紡績機100 って感じです。
- ちなみに当時の紡績機をめぐる技術発展の流れは糸作成と布おりの競争の様相を呈していました。糸づくりの性能が上がる→布づくりが糸の生産に間に合わなくて布づくりの生産を上げる→糸が足りなくなる→糸づくりの性能が上がる→・・・・を繰り返してました。歴史的には、力織機とよばれる最強の布織り機が生まれた後、糸づくりサイドは3回も新製品の開発をしてやっとペースが間に合いました。
- パソコンの値段は1990年代から2014年にかけて1/4になっています。 理由としては需要が増えたことで値段が下がったこと、技術向上したことなどが上げられます。生産台数は1990年代の約6倍です。 『JEITA』、消費者物価指数、より
- OSとはOpearating Systemと呼ばれるパソコンを操作するための土台となる基礎的なソフトウェアです。これらのOSが整備されたおかげでパソコンの普及率は爆発的に高まりました。例:Windows95。このOSは革命的で、それまで技術者のツールに限っていたパソコンの利用を日本で爆発的に高めました。 1995年 Windows95 発売日 当日 昔の秋葉原 part2